本が売れない時代に本を置く異業種店が増えているのはなぜ?繁盛店から読み解くマーケティングトレンド(4/4 ページ)

» 2016年10月06日 06時30分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]
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 「(レディスファッション小売業の鈴屋に勤めていた時代に)ファッションを通じてのライフスタイル提案の限界を感じていました。すべての商品はファッション化していく。これからの時代は自分のスタイルを実現できるものやコトに人の興味は流れていく。自分の生き方やライフスタイルを見つけられるような店にこそわざわざ行く価値が生まれる。これこそが店の役割ではないかと思ったのです」

 増田社長のこの発想こそがTSUTAYAのライフスタイル店舗の核となる部分です。最近では図書館もカフェを導入するなどして今までのイメージとは異なる空間になっていますし、バーやカフェでも本格的に本を置く店が増えています。渋谷や表参道にある「森の図書室」(森俊介・図書委員長)などはその人気に火をつけた一例でしょう。

森の図書室 表参道ヒルズ店 森の図書室 表参道ヒルズ店

 書店数は減少の一途をたどっているのですが、実は図書館は1990年から2011年の間に1324館も増えています。これに大学の図書館などを加えると全国に5000館もあるそうです。

 本は今も「知的イメージ」を持ったコンテンツです。本を揃えるとそうした印象を与えるというのは店にとっても大きなブランディング要素です。

 本を売場に上手に取り入れていくと、空間に深みが出て、さらにライフスタイル提案をしやすくなるという点で、本のもたらす効果は大きいのです。今後は不動産業界でも、例えば、賃貸店舗の半分は書籍とカフェという店も出てくるでしょうし、コンビニでも本を圧倒的に強化した店が登場するかもしれません。本はさまざまな業態や空間でまだ利用価値のあるコンテンツなのです。

 出版社や取次会社も積極的に異業種へ働き掛けることで、本の売り上げを伸ばすことはできるかもしれません。さらに言えば、全国の書店がそれぞれの独自性に磨きをかけて、本を通じたライフスタイル提案や、異業種とのコラボレーションへと舵を切ると、生き残る方法はまだいくらでもあるのではないでしょうか。

 本というコンテンツは、我々の想像を超えた価値を備えたものです。出版に限らず成熟業種で働くビジネスパーソンの方々は、今回の事例を参考に新たなビジネスのヒントをつかんでいただきたいと思います。

著者プロフィール

岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)

株式会社 船井総合研究所 上席コンサルタント兼ブランドプロデューサー

1969年、静岡市生まれ。ファッションを専門分野とした流通小売業界のコンサルティングのスペシャリスト。百貨店の営業戦略および全社MD戦略立案、GMSの売場再構築、大手メーカーの新規ブランド開発、SPA型小売業の事業戦略策定、中小専門店の現場支援コンサルティングなどを通じ、各業界で注目を集めるグレートカンパニーを数多く輩出させている。街歩きと店歩きによる消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。

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