シベリア鉄道の北海道上陸に立ちはだかる根本的な問題杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)

» 2016年10月07日 06時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 極東からEU、中東への輸送ルートとしては、船便、中国大陸鉄道ルート経由(CLB:China Land Bridge)、シベリア鉄道(TSR)経由がある。日本から欧州へは海運で40日、CLB、TSRルートで10日〜15日。中国ルートは複数の国にまたがるけれど、シベリア鉄道はロシア一国の管轄だから改良しやすい。近代化と高速化を実現すれば、数日から4日程度に短縮できるとも言われている。

 ベーリング海峡トンネルを推進するロシア政府にとって、シベリア鉄道の北海道延伸は壮大な計画のうちの1つだ。目論見としてはCLBルートに対抗する輸送経路を第一として、米国から欧州までを鉄道で結び、シベリアで生産するエネルギー資源を世界市場へ販売するという野望もある。世界規模の鉄道輸送がロシア一国の主導にならないように、日本はじめ世界各国は適度に関与する必要がある。そして日本は、世界が鉄道で結ばれたときに蚊帳の外になっては困る。だから樺太〜宗谷岬間の鉄道トンネルも無視できない。

世界にとって鉄道は「陸の船」

 日本の鉄道貨物は国際コンテナ規格に立ち後れ、運行ダイヤも旅客列車に遠慮しているために速度や輸送量で実力を発揮できない。長距離トラック輸送がドライバー不足で悩んでおり、荷主が鉄道貨物輸送に注目している好機だけど、実はダイヤや貨物駅の容量の問題で受け入れしにくい状態という。JR北海道にしても、国内農産物輸送に必要な線路を手放そうとしている。JR貨物自身も不採算路線をトラック輸送に切り替えた。積み卸し所を「オフレールステーション」とカッコ良く名付けているけれど、要するにトラック配送センターだ。日本では鉄道会社が鉄道を見限っているという現状だ。

 海外で鉄道貨物輸送が重視されていながら、日本は鉄道貨物が盛り上がらない。その理由を突き詰めると「鉄道」の存在意義が、日本と外国ではまったく違うことに気付く。大陸に存在する諸国にとって、鉄道は道路ではなく線路でもない。「航路」なのだ。列車は大陸を進む船である。そう考えると、腑に落ちるところは多い。

米国の一級鉄道 BNSFが運行する貨物列車。コンテナを2段積み(ダブルスタック)した長編成。まさに陸路を行く貨物船だ(出典:flickr、Bob Wilcox) 米国の一級鉄道 BNSFが運行する貨物列車。コンテナを2段積み(ダブルスタック)した長編成。まさに陸路を行く貨物船だ(出典:flickr、Bob Wilcox

 沿岸地域は大型貨物船で輸送できる。しかし、アメリカ大陸やユーラシア大陸の内陸にある大都市、冬場に港が使えないロシアの多くの都市にとって、船は使えない。そこで鉄道が代替手段になっている。だから米国では大型コンテナを重ねた「ダブルスタック」というコンテナ列車や、全長2キロメートルにもなる長編成の貨物列車が走る。ロシアも中国も貨物列車は長い。

 欧州では、線路を2本並べても上り線と下り線を分けた複線にせず、2本の線路とも双方向に使える方式を使う路線がある。これも線路というより航路に近い考え方だ。列車は常に空いている線路を進んでいく。アジア諸国では日本のようにダイヤをきっちりと定めず、閉塞システムだけ用意して列車の運行は臨機応変、到着駅のホームがすべて列車でふさがっていると、他の列車が動いてホームを空けるまで、駅の手前で待たされる、という運行もあるらしい。駅を港のように使っているわけだ。

 運行時刻の正確さに鈍感だったり、日本のようにATS(自動列車停止装置)やATC(自動列車制御装置)などをきっちり整備しないという習慣は、鉄道を船として扱っているからではないか。

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