ヘッドランプの進化とLEDが画期的な理由池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2016年10月11日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

 これを改善したのがハロゲンランプだ。電球内部にハロゲン族のヨウ素や臭素を添加した不活性ガスを封入すると、一度蒸発したタングステンがフィラメントに付着して、フィラメントがどんどんやせていくのを防止するサイクルができる。この結果、断線の心配が減って、よりフィラメントの温度を上げることができるようになり、明るいランプが作れるようになった。ただし、この蒸発・蒸着サイクルはフィラメント全体に一様に起こるわけではないので、条件的に不利な部分はやはりやせていき、やがて電球が切れる。

 もう1つ、フィラメントの発熱量を上げる設計によって、電球の冷却の問題が発生した。電球はレンズとリフレクターで構成される箱状のユニット内に設置される。このユニット内の容積を大きくしないとユニット内の温度が上がりすぎて、電球の寿命が短くなる。それに対処するためにヘッドラップユニットが大きくなり、クルマのフロントマスクデザインへの制約が大きくなった。

 デザインだけでなく、運動性能においても、大型のヘッドラップユニットは当然重くなり、かつほぼ例外なく車両の前端部にあるため、クルマの自転運動を起こすときも、止めるときも、慣性が大きくなってしまう。

 特に初期は発熱に耐える樹脂が普及していなかったため、レンズはガラス製にせざるを得ず、その弊害は少なくなかった。後に樹脂製に代わってから、重量面でのネガは軽減されることになったが、熱が樹脂に与える影響は大きく、古くなるとレンズが白濁したり黄ばんだりする原因になっている。それでも、寿命と明るさでは従来の電球を圧倒しており、1990年代までは、このハロゲンバルブ(球)が自動車用ヘッドランプの主流だった。

 1990年代後半に急速に普及し、ハロゲンランプに取って代わったのはHIDヘッドランプだ。呼び方は、キセノンヘッドランプ、ディスチャージヘッドランプなどさまざまだが、すべて同じ物だ。

 HIDヘッドランプとは要するに蛍光灯である。キセノンや水銀やヨウ化金属などのガスを充填した空間で電極間に放電を起こすとガス中の金属原子が発光するという性質を使った仕組みだ。光量に対して低電力で明るさや色の管理がしやすいほか、光源面積が小さいため、光束(照射方向と面積)のコントロールでも有利になる。

 一方、不利なのはコストとレスポンスで、ハロゲンランプより高価な上、スイッチを入れてから設計通りの明るさになるまでに数分を要する。レスポンスが悪いため、ハイビームとロービームを切り替える際に、光源のオンオフでコントロールすることが難しい。そのためHIDヘッドライトのシステムではハイビーム用に別途ハロゲンバルブを仕込んでいることが多い。これではハロゲンランプシステムの問題点を引きずってしまい。小型化軽量化が難しい。メリットは使用頻度の高いロービーム時の低消費電力だけだったのだ。

 ここまでのヘッドランプの進歩は、明るさと電力の関係改善がメインだった。要するに効率の改善である。ハロゲン以前の電球であっても電力を気にしないならいくらでも明るいものは作れる。つまり、妥当な電力という制約の中で明るさを競っていたのである。

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