築地市場駅に発着する貨物列車は、下関、東北三陸、札幌・釧路などの漁港から、一日あたり数本が到着した。貨車は鮮魚運搬専用の冷蔵車だ。初期は壁を厚く、開口部を小さくして保温性を高めた貨車が使われ、魚を入れた箱に氷を詰めて載せた。その後、車端部や天井に氷やドライアイスを搭載する貨車が開発された。庫内冷却装置を備えた本格的な冷蔵車も作られたけれど、試作程度にとどまったようだ。
今も昔も日本の鉄道は旅客列車優先が基本だ。しかし鮮魚列車は鮮度が第一だったから特別に優先され、特急、急行に準じる扱いを受けた。列車ダイヤの設定はもちろん、事故などでダイヤが乱れたときも優先して運行を再開した。魚が腐ってしまった場合の補償費用が大きかったからだ。市場で目論見通りの取引が行われると、貨車1両あたり数千万円の売り上げになる。しかし魚が腐ればゼロになってしまう。
また、冷蔵車の運行も特殊だった。鮮魚は相場にも左右されやすく、行き先変更や着駅変更もしばしば行われた。相場の好条件を待つため、冷蔵車に魚を載せたまま、鮮度が許す限り市場駅構内に留置する扱いも多かったという。トラックで運び込んだ場合は有料の倉庫に預ける必要があった。しかし鉄道貨車は運賃のみで預かってもらえた。この点、当時の国鉄は商売下手だったと言える。
冷蔵貨車は、ほかにもメリットがあった。後の冷蔵貨車はサスペンションを改良したため荷崩れがなく、トラックより魚が傷みにくかった。所要時間も短く、下関(幡生駅)〜東京市場駅の鮮魚特急「とびうお号」は18時間10分。これで東京の人たちは新鮮なフグを食べられるようになった。長崎の魚も27時間で到着する。八戸・鮫駅〜東京市場駅の急行貨物「東鱗1号」は14時間で到着した。高速道路網が発達してもトラックより速く、旬の魚を大量に運べる。多くの貨物がトラックに移行しても鮮魚列車は人気だったという。
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