素顔は意外に優しい? 暴走するフィリピンの「暴言大統領」世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2016年10月25日 09時23分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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どんな顔を見せるのか

 メディアの取材に応じたあるフィリピン人女性はドゥテルテについて、「彼は決して人に屈辱を与えたりしないし、情に厚い人物である」と語っている。また彼を知る別の人物は、大統領は非常に頭がよく、思いつきや勢いで暴言を吐くような人ではないと言う。そして「彼のジョーク(暴言)は、一般大衆と『つながる』ためのものである」とコメントしている。

 確かに、大統領は暴言を吐いても、大きな問題になりそうだとすぐに釈明または謝罪していることから、ワザと物議になるよう過激な発言して話題作りをしているのではないかとの声もある。もともと米軍には否定的だが、米国に対して過激な物言いを続けるのは、オバマも米大使も任期終了が迫っているからで、そういう意味でも刺激しても問題ないと考えているという指摘もある。

 ちなみに最近やりとりしたある米政治専門家は、「(南沙諸島に近く、南シナ海への米軍のアクセス拠点のひとつである)パラワン島プエルトプリンセサにあるアントニオ・バウティスタ空軍基地への米軍のアクセスを禁じるというようなことがない限り、彼の発言は暴言以上にはならないから、米政府も深刻には見ないだろう」と指摘していた。

 こうした側面を見てみると、メディアで強く印象付けられている「暴言大統領」とは違った顔が見えてくる。もちろん配慮に欠けた発言も少なくないが、釈明も含めて、フィリピンでは逆にそれがドゥテルテの人間的魅力と受け取られている。実はフィリピンでは、冒頭のオバマに対する発言のように、彼のタガログ語での発言は煽(あお)り気味に英語などに誤訳されているとの批判も出ている。

 とにかく、次の注目は日本訪問だ。大統領は一体どんな顔を見せるのか、楽しみである。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。


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