2016年は誰が手にした? ノーベル平和賞なんていらない理由世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)

» 2016年11月17日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

ノーベル平和賞が交渉に使われている

 そんな血で血を洗う内戦は2016年の夏、6月23日に転換点を迎える。何年にもわたる交渉の末にコロンビア政府とFARCが和平協定に署名し、争いに終止符が打たれることになったのである。合意に向かうまでのFARCとの交渉には、キューバなどを会談場所にして、世界各地の紛争に首を突っ込む「仲介外交」で知られるノルウェー政府も大きな役割を果たした。

 ちなみにノルウェーは、FARCが武器を置く決意をしたのは、この和平協定に至るまでの「西欧諸国による徹底した取り組み」の結果だったと発表していた。

 ただこの和平協定は、コロンビアで住民投票を行って国民からの承認を得る必要があった。そして10月2日に住民投票が実施され、どんでん返しが起きる。僅差で協定に反対する国民が勝利したのである。サントスの協定は国民から拒絶されてしまったわけだが、その理由は、和平の条件があまりにFARCに都合のいいものだったからだ。

 例えば、和平協定では、FARCの指導者たちの戦争犯罪について、禁固刑など実刑に処することはせず、形だけに近いような課外活動のみにし、さらにFARCは今後8年にわたってコロンビア議会の上院で5議席、下院で5議席を与えられる。その上、7000人ほどの戦闘員には、社会復帰のために数年の間、給料を支払うことにもなっていた。これは、紛争に巻き込まれた多くの被害者や遺族などが到底受け入れられない話であり、国民から拒否されるのは当たり前である。国民の間では、FARCに禁固刑などできちんと罪を償わせたいと主張する声が多いという。

 このように協定は完全に頓挫してしまった。にもかかわらず、住民投票の5日後、ノルウェーのノーベル賞委員会は驚くことにサントスに平和賞を与えることを決めた。評論家たちからはサントスの交渉が失敗だっとの批判も出ていたのに、だ。

 同委員会は、「この受賞によって、すべての関係者が平和に向けて引き続き取り組んでいくよう促すものになることを願う」と述べている。今回の平和賞は“偉業”に対する賞ではなく、今後、交渉を頑張ってほしいという“応援”の意味があるということらしい。ノーベル平和賞が交渉に使われるというパターンがあるとは知らなかった。

 もっとも、交渉は1人ではできない。交渉を評価するなら、FARC側にも平和賞を共有させるべきではなかろうか。

南米コロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領(出典:Nobelprize.org)

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