国鉄分割民営化によって、JR貨物とJR旅客会社が分離された。このとき初めて欧州型の上下分離が採用された。JR貨物の輸送は全国にわたるため地域輸送とは言えない。鉄道貨物は低迷していたから、JR貨物の負担を小さくしたい。だから走った列車の距離に応じて線路使用料を支払う仕組みにした。旅客と貨物をまとめた分割会社にすると、JR北海道の貨物列車が本州を走行するとき、JR東日本がJR北海道に車両を借りて走らせる形になる。運賃も分割される。これは精算が面倒だ。
その後、貨物列車にならって列車運行のコスト負担を軽減する仕組みとして、地方ローカル線でも上下分離化が始まった。これは公設民営という考え方とセットだ。つまり、日本の上下分離の仕組みは、鉄道会社の経費軽減を目的としている。だから線路保有会社と列車運行会社は1対1だ。複数の運行会社に通行を認め、サービスを競わせ、魅力ある列車運行を実現するという理想はなかった。
鉄道事業法は独占を排している。線路保有会社は複数の列車運行会社と契約できる。日本での実例は、前回も挙げた神戸高速鉄道東西線だ。阪急電鉄と阪神電鉄が運行会社となって、同じ線路を使用している。関西空港アクセス路線のりんくうタウン〜関西空港間も線路保有会社は関西空港鉄道で、運行会社はJR西日本と南海電鉄である(関連記事)。東京では、都営地下鉄三田線の白金高輪〜目黒間が上下分離式だ。線路保有者は東京メトロ、東京都交通局は運行会社という立場だ。
上下分離方式が日本でも定着し、バスと列車の不公平は改善された。しかし、見方を変えると「鉄道会社同士の不公平が始まった」と言える。地方ローカル線は公設民営で、列車運行会社の負担は減った。大手私鉄から見れば、自分たちのものだった線路を自治体に負担してもらいたい。列車運行に専念し、線路使用料だけ負担すればコスト削減になり、鉄道事業はもっとも儲かるはずだ。
それを言い出さない理由は、今まで「路線のすべてに責任を持つ」が当然だったこと。そして「路線にかかわるすべての利益をいただきたい」からだ。制度上は不公平だけれども、その不公平に耐えてあまりあるメリットが存在する。上下分離、オープンアクセスとなれば、自社の線路を使って他社の列車が利益を上げてしまう。ここにも不公平がある。道路は皆で使えるけれど、線路は企業の独占が許される。
もっとも、JRや大手私鉄も、関西空港線のように建設費用の負担が大きく、公共性の高い計画路線で上下分離制度を活用している。適材適所である。
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