これから起こる「トランプリスク」とはマネーの達人(6/6 ページ)

» 2016年12月12日 15時15分 公開
[原彰宏マネーの達人]
マネーの達人
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ラストベルトの復活なるか

 トランプ氏の経済政策は「内需拡大」です。自国産業を復活させるには、どう考えてもドル安のほうが有利です。ただ気掛かりなのは、ラストベルトの復活です。これは決して容易なものではないでしょう。

 海外に移設した工場は、そう簡単に米国国内に戻すことはできないでしょう。人件費の安さを求めて移転させた工場ですから、それを国内に戻すとなると、さまざまな問題が生じます。ここでNAFTAから撤退すれば、米国とメキシコとの貿易において関税が発生します。

 このように、選挙中に発した威勢の良い発言が実現されないとなれば、支持者からのバッシングを受けかねません。マーケットにおけるトランプリスクは、このあたりから顕在化してくるのかもしれません。

今後、中国やロシアとどう付き合うかが重要

 トランプ氏の勝利と同時に、早速動き出したのは中国です。政治的な視点で見ると、もしトランプ氏がTPPを白紙に戻せば、RCEP(東アジア包括的経済連携)を前におし進める形で中国が動いてくるでしょう。

 RCEPは日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの6カ国がASEAN(東南アジア諸国連合)と持つ5つのFTAを束ねる広域的な包括的経済連携構想です。TPPに似ています。もともとTPPは中国包囲網といわれていましたから、中国にとってTPPが成立しないことは好機と捉えているのではないでしょうか。

 RCEPが実現すれば、人口約34億人(世界の約半分)、GDP約20兆ドル(世界全体の約3割)、貿易総額10兆ドル(世界全体の約3割)を占める広域経済圏が出現します。中国やロシアにとっては、トランプ氏が大統領になるのは大歓迎ではないでしょうか。

 そういう意味では、トランプ氏の勝利は世界の秩序をも変える出来事と言えます。とりわけ、ロシア帝国復活を目指すプーチン大統領と世界の覇権を握ろうとしている中国の動きが活発になってくると思われます。

 中国が米国に提唱しているのは「G2」です。「G8」ではなく、米国と中国だけで世界を動かすという話です。

 EUの力は衰え、英国も中国資本に寄りかかってきています。トランプ次期大統領がどれだけの力を持って中国やロシアと対抗できるのか、あるいは逆に手を結ぶのか――それほどまでに、トランプ氏が大統領になることはとても重要なことなのです。(原彰宏)

著者プロフィール:

原彰宏

株式会社アイウイッシュ 代表取締役

関西学院大学卒業。大阪府生。吉富製薬株式会社(現田辺三菱製薬株式会社)、JTB日本交通公社(現(株)ジェイティービー)を経て独立。独学でCFP取得。現在独立系FPと して活動。異業種経験から、総合的に経済、企業をウォッチ、金融出身でないことを武器に「平易で」「わかりやすい」言葉で解説、をモットーにラジオ出演、 セミナーや相談業務、企業労組の顧問としての年金制度相談、組合員個別相談、個人の年金運用アドバイスなどを実施。個人投資家として、株式投資やFX投資を行っている。

保有資格:一級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP


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