GEに学ぶ、日本企業の「これから」キャズム理論が進化している(5/5 ページ)

» 2016年12月16日 07時29分 公開
[永井孝尚ITmedia]
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課題3:コアコンピタンスをいかに生かすかという問題

 3つ目の課題は「企業の強み」、つまりコアコンピタンスの活用に関する問題だ。

 キャズム理論はシリコンバレーのスタートアップ企業で生まれた方法論だ。スタートアップ企業では、過去のビジネスで企業の中に蓄積されたコアコンピタンスがほとんどない。強みはゼロからつくるという発想であり、買収という選択肢もある。一方で多くの日本の大企業は、過去の膨大な経験の蓄積に基づいたコアコンピタンスを持っている。キャズム理論ではコアコンピタンスをどのように考えればよいのだろうか?

 最初に考えるべきは、「企業の強み」と「製品の強み」をわけて考えることだ。例えばかつてのコダックの写真フィルム、あるいはかつてのIBMの大型コンピュータといった製品は、新しい技術の登場で陳腐化してしまった。製品面の強みは陳腐化してしまうのだ。

 既存ビジネスにおける製品の強みを分解・分析した上で、新規事業でいかに生かすかを考えるべきだ。参考になるのが、GEの事例だ。

 GEは伝統的に産業用機器、例えば医療機器・ジェットエンジン・発電所のタービンなどに圧倒的な強みを持っていた。これらは高い競争力を持っていたが、今やハードウェア単体では強い競争力を維持できない時代になってしまった。一方でGEは、これらの産業用機器を効率よく稼働させたり、故障を予測するノウハウを持っていた。

 今後、これらGEが得意な多くの産業用機器はインターネットに接続されていく。世の中でIoTと呼ばれている動きだ。産業用機器の経験が豊富に蓄積されており、稼働率を高め故障を予測できるというGEの強みは、IoT関連技術と組み合わせることで、大きな価値を発揮できるのだ。

 しかし課題もある。既にデータやり取りの標準が確立されているPCやスマホとは違って、産業用機器のデータのやり取りはバラバラで標準化されていないのだ。

 そこでGEは、世界中の産業基盤の運用に乗り出すべく、全社で「インダストリアル・インターネット」に取り組むことを宣言した。PREDIXはインダストリアル・インターネットを実現するためのサービスだ。

 産業用機器のハードウェア単体では勝負に勝てないことを知っていたGEは、産業用機器の膨大な経験と最新デジタルテクノロジーを組み合わせ、「稼働率向上」「故障予測」という価値を顧客に提供することにしたのだ。産業用機器を数多く展開する法人顧客にとって、「稼働率向上」「故障予測」は売り上げに直結する重要課題だ。稼働率向上を実現できれば、お金は惜しまない。この取り組みを通じて、GEはデジタル変革をリードし、新規ビジネス創出を図っているのである。

 125年の歴史を持つGEは、GEしか持たないコアコンピタンスに最新デジタルテクノロジーを組み合わせることで、まったく新しいインダストリアルインターネットという市場で覇権を握ろうとしているのだ。

 自社の強みを考え、残すもの、捨てるもの、強化すべきものを見極め、それをしっかりと実行する。さらに、最新デジタルテクノロジーを生かして、強みをいかに増幅できるかを考える。多くの日本企業は、GEの取り組みから学べることがあるはずだ。

筆者プロフィール:永井孝尚(ながい・たかひさ)

 マーケティング戦略アドバイザー。1984年に慶應義塾大学工学部を卒業後、日本IBMに入社。製品開発マネージャー、マーケティングマネージャー、人材育成責任者を担当。2013年に同社を退社して独立。ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表取締役に就任。製造業・サービス業・流通業・金融業・公共団体など、幅広い企業や団体を対象に、マーケティングに関する講演や研修を行っており、さらに企業との協業も数多く実施している。

 主な著書にシリーズ累計60万部を突破した『100円のコーラを1000円で売る方法』シリーズ、『そうだ、星を売ろう』『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』(以上KADOKAWA)。最新著は『これ、いったいどうやったら売れるんですか? 身近な疑問からはじめるマーケティング』(SB新書)。

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