すべては笑顔のため「鉄旅オブザイヤー'16」杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)

» 2017年01月27日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 審査員特別賞は「西鉄旅行」の「貸切新幹線で行く 元気に! 九州 鹿児島」だ。九州観光支援のための割引付旅行プラン助成制度、いわゆる「ふっこう割」を活用したおトクなツアー。定員546人のN700系を1編成貸し切り、往復とも満席という快挙を成し遂げた。開催日は9月25日発の1泊2日の1回だけ。販売額は1570万9900円。

 「ふっこう割りで九州新幹線を満席にしてやる!」という、旅行会社の意地の塊みたいな作品だ。価格設定が1万円から3万5200円と幅広い理由は、ホテル素泊まりのダイナミックパッケージや地元の人気バンド「Windy」のコンサートツアーなど多彩なメニューを用意したから。安いだけではなく満足度も高かったようで、復路で12月開催の大分往復ツアーを告知したところ、すぐに予約につながったとのこと。賞の趣旨に合い、直球勝負の気持ち良い企画内容だった。

 新設されたDC賞は「デスティネーションキャンペーン」に沿った作品が対象となる。デスティネーションキャンペーンはJRグループと大手旅行会社、対象地域の自治体や旅行業者が連携して行う観光キャンペーンだ。四季に合わせて4回行われるけれど、「デスティネーションキャンペーン」の名称は表に出ない。地域名を前に出すような仕掛けになっていて、JRグルーブの広告、地域の記念イベントをからめた旅行会社の企画商品が増える。

初代DC賞はクラブツーリズムが受賞。瀬戸内観光列車旅は食事も力を入れた 初代DC賞はクラブツーリズムが受賞。瀬戸内観光列車旅は食事も力を入れた

 「最近、この地域の旅行が流行ってるな、イベントが多いな」と思ったら、デスティネーションキャンペーンの効果だ。DC賞の設定で、デスティネーションキャンペーンの知名度向上になるとうれしい。世界遺産をテーマとする観光客が世界にたくさんいるように、デスティネーションキャンペーン自体のファンが増えたらいいと思う(関連記事)。

 第1回のDC賞受賞作品は、クラブツーリズムの「プレミアムステージ 中国鉄道コンチェルト<第1楽章>〜瀬戸内観光列車旅の章〜3日間」だった。4月30日発の3日間。岡山DCに当てた企画で、JR西日本がDCをきっかけに導入した宇野線の観光列車「La Malle de Bois(ラ・マル・ド・ボァ)」のほか、「みまさかノスタルジー」「瀬戸内マリンビュー」「500 TYPE EVA」を組み合わせた。さらに岡山電気軌道の路面電車を貸し切り、車両基地まで乗り入れて見学する。

 路面電車の貸し切り、「500 TYPE EVA」のコクピット体験を盛り込むほか、個人旅では乗り継ぎが不可能な行程を、貸し切りバスでワープして乗り切るという部分が旅行会社のメリット。東京からの往復はのぞみのグリーン車で、ハイクラスな鉄ちゃんツアーだ。平均価格帯は16万円、販売実績は1120万円。

 クラブツーリズムは会員制で顧客層を把握しているだけに、高額商品のツボを上手に突いてくる。2014年には「ななつ星in九州」と豪華客船「飛鳥II」を組み合わせてグランプリを受賞している。今回は受賞作のほかに、中国地方で特別運行するトワイライトエクスプレスと「或る列車」をからめた6泊7日、100万円〜145万円という商品もあった。販売額は3450万円とのこと。富裕層向け商品の開拓者だ。

 未受賞の旅行会社に送られるルーキー賞は阪急交通社の「日本海絶景トレイン『きらきらうえつ』に乗る月山・鳥海山3つの絶景遊覧 3日間」だ。日本海の眺めで人気の「きらきらうえつ」を基軸に、高級旅館で2泊。由利高原鉄道に全区間乗車するほか、月山、鳥海山、松島の3カ所を巡る。

 「きらきらうえつ」は特別チャーター運行で、日本海きらきら羽越観光圏推進協議会の協賛による車内イベント、鶴岡市観光協会、庄内コンベンション協会などとタイアップし、鶴岡駅でおもてなしイベントを開催した。庄内砂丘メロンの試食、地酒の試飲会などが盛り上がったとのこと。鶴岡駅で開催された野菜の直売会の売り上げも多く、現地にとっても利点の多い旅だったようだ。

 ベストアマチュア賞は今回から始まった。一般公募で旅行作品を評価し、優秀作に贈呈される。条件は2017年度デスティネーションキャンペーン開催地(京都・四国・長野・山口)のどれかをからめること。受賞作は香川県出身の谷正博さん作「寝台特急サンライズ瀬戸&四国まんなか千年物語号で行く四国横断鉄道の旅」だ。

JR四国による「四国まんなか千年ものがたり」も紹介された。一般部門賞はこの列車を先取り。副賞としてペアチケットが贈られた JR四国による「四国まんなか千年ものがたり」も紹介された。一般部門賞はこの列車を先取り。副賞としてペアチケットが贈られた

 東京からサンライズ瀬戸で出発。新しい観光列車「四国まんなか千年ものがたり」と「土佐くろしお鉄道トロッコ列車」「くろしお鉄道しんたろう1号」に乗車。うどん、骨付鳥、鮎の塩焼き、栗林公園、うちわのミュージアム、大歩危峡川下りなど、観る、食べるもしっかり盛り込んだ。

 募集要項で、副賞は賞金5万円とJR協賛による記念品と告知されていた。記念品は期待するようなものではなさそうと思っていたら、授賞式ではJR四国から「四国まんなか千年ものがたり」の車中食事付きペアチケットが贈られた。うれしいサプライズだ。応募総数は13作品。副賞の魅力を期待して、今後は応募が増えるかもしれない。副賞のハードルを上げたJR四国の功績は大きい。

一般部門の審査項目 一般部門の審査項目

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