軽自動車の歴史とスズキ・ワゴンR池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2017年02月27日 06時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

新型ワゴンR

 そしてワゴンRは今回のモデルチェンジを迎えた。新型ワゴンRとは何か? 一言でいえば、ラグジュアリー化である。第一にパッケージコンセプトが変わった。デビュー以来「4人で出掛ける軽自動車」を訴求の中心に据えてきたワゴンRが、再び前席優先に回帰したのだ。それはアルトの時と同様、ユーザーの利用実態調査に依拠している。1人、または2人の乗員を乗せ、より快適で豊かに空間を構築し、リヤスペースについては、ユーティリティを優先とした。

太いBピラーがデザイン上の特徴。このピラーの前後で空間を分けつつ、また融合させるというコンセプトを表したもの。ピラー上部でガラス面のグラフィックがつながっている 太いBピラーがデザイン上の特徴。このピラーの前後で空間を分けつつ、また融合させるというコンセプトを表したもの。ピラー上部でガラス面のグラフィックがつながっている

 初代以来、スズキはワゴンRに3つの柱を見立ててきた。「居住性の向上」「乗降性の向上」「ユーティリティの向上」である。もっと直截に言い換えれば「屋根が高いこと」「シート高が乗降に楽な高さであること」「荷室の使い勝手が良いこと」である。

 しかし、ここでリヤシートが問題となる。自動車のシートは前席より後席座面が高くないと後席の閉塞感が大きくなる。だから居住性を優先すれば、シート座面高を高くしたい。乗り心地を優先すれば座面のクッション厚も大きく取りたいし、座面や背もたれの形状もエルゴノミックになる。そういうシートは折りたたんだとき、まずフラットにならない。世の中の自動車のカタログを見る限り、素晴らしい座り心地の椅子でありながら、畳むと真っ平らな荷室フロアが現れ、さらに後ろに倒すとフルフラットの素晴らしいベッドスペースになるようなことが書いてあるが、そんなうまい話はあり得ない。

 二兎を追う者は一兎をも得ずという通り、現実には、設計者はきちんとプライオリティをつけなくてはならない。設計とは最良の妥協点を探すことであり、何でも欲張って盛り込むことではないのだ。スズキの言葉をそのまま使えば、ワゴンRは前席を「パーソナルスペース」後席以降を「実用スペース」としている。前席優先という意味では、アルトへの回帰だが、その思想は正反対で、アルトがミニマリズムを徹底したローコスト化に前席優先を使ったのと逆に、2人のためのぜい沢な空間作りと、多彩なユーティリティスペースを生み出すことが新型ワゴンRのコンセプトになっている。だからリヤシートは座り心地よりアレンジ性を優先した設計になっているのだ。

最も印象を変えたのはこのインパネデザインだろう。落ち着いた上質なデザイン 最も印象を変えたのはこのインパネデザインだろう。落ち着いた上質なデザイン

 新型ワゴンRは、クルマをサイドから見たとき、Bピラーが従来になく太くデザインされているが、これが「パーソナルスペース」と「実用スペース」の境目を明確化することを意図してデザインされている。それは2つのスペースの分離であり、同時に融合である。

 そうしてゆとりある前席を確保しつつ、失礼ながら従来のスズキからは考えられないほどにインテリアデザインを洗練させた。「機能はこれで十分」という潔さに満ちていた旧型に比べて、新型は明らかに上質感を目指した方向転換が図られている。

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