こうしたサイバー工作の詳細については、最近私が上梓した『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋刊)に譲る。拙著では、イスラエルのサイバー政策を築いてきた重要人物などへの取材から、世界的にサイバー大国と言われるイスラエルが、どうして大国になることができたのかについても追求している。また世界各地のサイバー戦争の「リアル」もカバーしている。
話を戻すと、実は今回の金正男の殺害事件の一報を聞いたとき、私は「まるでイスラエルがドバイで実行したある事件のようだ」と感じていた。その事件とは、やはり2010年に起きた、まさに映画顔負けの暗殺事件のことだ。
ターゲットはマフムード・アルマブホーフ。パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの軍部門の幹部で、1989年にイスラエル兵を殺害するなど、イスラエルから命を狙われていた。
アルマブホーフは2010年1月、滞在作のドバイのホテルで暗殺された。殺害を実行したのは、モサドの少なくとも11人からなる暗殺者チームだった。チームは、英国やアイルランド、フランスやドイツ、オーストラリアの偽造パスポートで、次々と、ドイツやスイス、フランスなどからドバイ入りし、アルマブホーフと同じホテルにチェックインしたり、近くのショッピングモールに集まったりしていた。また工作員の中にはテニスの衣装に着替え、ラケットを手に、アルマブホーフの部屋番号を特定するために尾行をしていた。
そしてこうした動きは、空港からホテル、ショッピングモールまですべて防犯カメラに写っており、メディアなどで大々的に公表された。今もインターネット上では、その生々しい暗殺作戦の様子を見ることができる。殺害実行は密室で行われていたために確認はできないが、金正男の事件を彷彿とさせる映像だ。
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