企業幹部の9割、「デジタル化の遅れ」に危機感欧米に追いつくには?

» 2017年03月02日 07時37分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

 野村総合研究所が実施した、企業のデジタル化に対する意識調査によると、日本企業の幹部の約9割が「欧米企業よりもIT技術の導入が遅れている」と感じていることが分かった。IT活用による業務効率化の重要性は広く認識されており、特にIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、Fintech(IT技術を用いた金融サービス)に注目が集まっているものの、既にこれらを実務に導入している企業は約1割と少数だった。

日本企業のトップは「デジタル化」をどう捉えている?

 調査は、日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の加盟企業において最高情報責任者(CIO)、IT部門長、管理職などを務める208人を対象に、IT技術に関する認識と導入状況を聞いた。

 その結果、「既にビジネスにIT技術を導入済み」と答えた人は全体の8.2%と少数。その一方で、「導入する技術を模索中」(45.2%)、「実証実験を実施中」(40.4%)などの答えが多く集まった。

photo IT技術の導入状況

 また、企業幹部が現在着目している技術は「IoT」が最も多く、52.4%を占めた。以下、「AI」(37.0%)、Fintech(3.8%)、「ウェアラブル」(3.4%)という結果だった。

photo 着目する技術

 一連の技術によって業務が大きく変わる点については「商品・サービス形態」(70.2%)、「ワークスタイル」(66.8%)、「意思決定スピード」(61.1%)、「顧客対応」(58.7)などの回答が多く、デジタル化が業務にもたらす影響について理解が進んでいることがうかがえた。

photo デジタル化によって変わると考える点

 デジタル化の重要性は認知されているものの、導入が進まない日本企業の現状について、「欧米よりも遅れている」と答えた人は89.4%。約9割の企業幹部が現状に危機感を持っていることが分かった。

photo 欧米企業に対する認識

アナリストが提言する、欧米に追いつくための方法とは?

 日本企業がデジタル化を進め、欧米企業の技術レベルに達するには、身近な業務課題の解決から始めることがカギになりそうだ。

 野村総合研究所 戦略IT研究室の譲原雅一アナリストは、「経営層がトレンドに流され、『自社にIoTを導入したい』『AIを導入したい』と、技術ありきで考えていると成功にはつながらない」と指摘する。「企業のデジタル化は『小さく生んで、大きく育てる』が基本。まずはコスト削減などの身近な組織内課題の解決のためにITを導入し、必要に応じて拡充しながら大きな変革へとつなげるべき」と話す。

photo 提言を行う譲原アナリスト

 また、譲原アナリストは「IT技術を導入したからといって、すぐに業務内容が改善されるという認識は誤り」と指摘する。「米General Electric(GE)では、1990年代後半からエンジンなどの製品にセンサーを搭載して状態を確認し、運用保守を行うサービスを始めている。それから試行錯誤を繰り返した結果、今の成功がある。日本企業は、成果が出るまで長い目で見守ることも重要」という。

photo 米General Electric(GE)の公式サイト

 部署間の相互理解が不十分な点も、日本企業の課題のようだ。譲原アナリストは「コンサルティング事業を行う中で、デジタル化が進まない日本企業の共通点は、部署間の風通しの悪さにあると気付いた」という。「若手に積極的に欧米を視察させているものの、上層部にうまくフィードバックできていない企業や、IT部門やアナリティクス部門の従業員だけがITに精通し、他部署の人間はIT活用の目的や手法を理解できていない企業は体制を見直すべきだろう」と提言する。

 技術の改善に多くの金額を投資できる大企業の方が、中小企業よりもデジタル化を進めやすいことも考えられるが、譲原アナリストは「規模の大小を問わず、経営層がITに対する理解がある企業の方が、業務変革に成功しやすい傾向がある。経営層は、社員がIT活用を受け入れやすい風土づくりを行うことが大切」と話している。

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