カシオのスマートウォッチ、開発の裏で何があったのか長年の苦労乗り越え商品化(3/4 ページ)

» 2017年03月10日 07時00分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

野外での観察から企画を“ひらめいた”瞬間

 チーム内で議論を重ねつつ、さまざまな場所に出向いて「スマホが使いづらいシーン」を探した結果、ふとしたきっかけから「アウトドア」の可能性に気付いたという。

 「ある時、アウトドア好きのメンバーの発案で釣りや登山に出掛けて、野外でのスマホの使われ方を観察してみました。すると、釣りをしている人は、魚やエサなどに触れるため、スマホを汚さないようにビニール袋に入れて操作していました。登山をしている人は、トレッキングポールで両手がふさがっているので、服やバックパックのポケットにスマホを入れ、休憩の時だけ取り出して地図などを確認していました。このようなシーンにスマートウォッチがあれば、画面を汚すことなく、いつでも必要な情報を閲覧できる。『この分野なら勝負できる!』とひらめきました」

 こうして企画した「WSD-F10」は、コンパス、気圧高度センサー、日の出や日の入りの時刻と方角が分かる機能、気圧や潮位の変動が分かる機能など、アウトドアファンが求めるアプリを搭載。一方で、一般的なスマートウォッチには搭載されている心拍センサーを排するなど、機能の取捨選択を徹底した。

photo 各種アプリケーション

 画面にもこだわり、モノクロの液晶とカラー液晶を重ねた「2層液晶」を採用。カシオが登山用腕時計「PRO TREK」で培ったノウハウを生かした形だ。

 太陽光の反射に強く、屋外で高い視認性を持つモノクロ液晶と、屋外での視認性はやや落ちるが、地図などを鮮やかに映し出すカラー液晶を組み合わせることで、液晶の切り替えによるバッテリーが節約できるほか、時刻と方位を重ねて表示することなどが可能になる。このような2層液晶の導入には、他社のスマートウォッチとの差別化を図る狙いもあった。

photo 2層液晶の機能の一部

 「当時市場に出ていたスマートウォッチは、通常時は画面が暗転していて、必要な時だけ起動して時間を見るものがほとんどでした。一方、『WSD-F10』は、使わない時はカラー液晶のみがオフになり、モノクロ液晶はオンのままなので、常に時間を確認できます。『どんな時でも時刻を確認できる』という腕時計の基本を守ることで、時計メーカーならではのこだわりを表現しました」

 搭載する機能の開発が進んだ時期に、米Googleがウェアラブルデバイス向けのOS「Android Wear」を発表。このことが、商品化への追い風となった。失敗した2つの試作品では、ソフトウェアの内製化に多くのコストを要していたが、Android Wearの導入によって製作コストの削減に成功したのだ。そして、開発を始めてから約4年が経過した16年3月、ついにカシオ史上初のスマートウォッチ「WSD-F10」が世に出ることになった。

 発売後、「WSD-F10」は、アウトドアファンだけでなく、ガジェットファンや時計ファンなど、幅広い層から人気を集めた。しかし、坂田さんは「結果的に多くの方に注目していただき嬉しかったですが、本来の目的は大ヒットを狙うのではなく、特定の層に訴求すること。狙った層であるアウトドアファンから『使いやすい』『実用的』との声をいただいたことが最大の収穫です」と気を引き締める。

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