これらの中でもっともインパクトが大きいのは、やはり従事者数が多い小売業界ということになるだろう。小売業に従事する人の数(卸売含む)は1000万人を超えており、これは日本の労働者の6人に1人に相当する。しかも人手不足が深刻であり、かつAIによる代替可能性が高い。
AIによる小売業の変革ということになると、米アマゾンの無人コンビニのようなケースが想定される。アマゾンは、AIを活用したレジのない完全自動コンビニの展開を明らかにしている。店内にレジを設置せず、顧客は専用アプリをスマホにインストールし、商品を手に取って店を出れば自動的にアマゾンのアカウントで課金される仕組みを採用した。
もし無人コンビニの普及に成功した場合、アマゾンは自動運転車を使った商品の配送網の確立を試みる可能性が高い。これが実現すると、小売店の運営についてほとんど人手をかける必要がなくなってくる。日本ではアマゾンの無人コンビニは黒船というイメージで語られているが、日本経済が直面している供給制限の現実を考えると、むしろそれは逆に考えるべきだろう。
コンビニを初めとする日本の小売業界こそ、積極的に無人店舗の運営を検討し、人手に依存しないオペレーションを検討すべきである。
先ほどの日銀短観では、介護など対人サービスの分野の人手不足感はかなり強いとの結果になっているが、この分野のAIによる代替可能性は高くない。対人サービス業務は、臨機応変な対応が必要であり、AI化・ロボット化を進めることが思いのほか難しいからだ。
しかし、この分野に人材が供給されなければ、ここが日本経済における最大の供給ボトルネックになってしまう可能性がある。小売・卸分野に積極的にAIを導入するとともに、小売の分野から介護をはじめとする対人サービス分野への人材シフトを促す措置が必要となるかもしれない。
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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