一方でこんな見方もある。トランプは、大統領選からずっとロシアとの“親しい”関係が指摘されてきた。ロシアがトランプを勝たせようとしたとも言われている。そんな中でトランプは、アサド政権を支援するロシアを横目にミサイル攻撃を実施し、ロシアと関係が親密ではないかのようなアピールをしたと言うのだ。確かに、少なくとも今後米国とロシアとの間には穏やかではない空気が流れることになるのは間違いないし、それがシリア攻撃の動機のひとつだったとしてもおかしくない。
ただこれ以上の攻撃を行って、シリアやロシアなどを刺激すると厄介なことになるとトランプも十分理解している。すでに米国自身がシリアで「越えてはいけない一線(レッドライン)」を越えたとの非難も聞こえる。トランプ政権は、さらなる攻撃によるシリアの泥沼化を望まない可能性が高い。それは過去の発言からも分かる。
2013年にトランプはシリアへ米国が介入することに反対していた、というのはすでに述べた。最近でも、トランプは中東で政権交代を促すことに興味はないと主張していたし、彼の側近らもシリア問題に対して、アサド退陣は絶対的な優先事項というわけではないとコメントしていた(ただこれら側近らの発言も今少しぶれ始めているのだが……)。
さらにもう一つ特筆すべきは、2013年にトランプが、シリアに対する軍事作戦は「第三次大戦」につながる可能性が高いと自ら述べていたことだ。つまり米軍がシリア軍を本格的に攻撃することで、世界を巻き込んだ大混乱になると認識しているのである。冷静に考えたら、シリアの化学兵器よりもはるかに多い“子ども”の犠牲者を出す争いを、トランプは望まないはずだ。
また、トランプ政権ではいま米軍の権限が強化されつつあるが、中東問題や軍の政策・歴史に精通するジェームス・マティス国防長官がいることを考えると、今回の攻撃もかなり計算されたものだとする見方もある。オバマ前政権が懸念したように、今後さらに積極的に動けば、単独主義に対する批判も生まれるし、その法的正当性なども議論になるだろう。ここでは書ききれないさまざまな要素が絡むが、こうしたことを鑑みると、さらなる攻撃が簡単な選択ではないことが分かる。
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