なぜ社長は自分を棚に上げて「スゴい人になれ!」と叫ぶのか常見陽平のサラリーマン研究所(2/3 ページ)

» 2017年04月14日 06時00分 公開
[常見陽平ITmedia]

「スゴい人になれ」と言うようになった理由

 以前、「できる人」という幻想』(NHK出版)という本を書いた。その中で、1989〜2013年までの入社式における社長スピーチ報道を分析したことがあった。1996年あたりを境に、入社式における社長スピーチは厳しいものになっていく。これから会社に入るというのに、「会社人間はいらない」みたいなメッセージになっていくのだ。

 しかも、「お前はできとるんか」と言いたくなるような「スゴい人になれ」メッセージになっていく。

 1996年が節目になっているのには、ちゃんと理由らしいものがある。前年の1995年5月には、日経連(当時)が『新時代の「日本的経営」』を発表している。このレポートでは、日本的雇用慣行の見直し、特に正規雇用と非正規雇用を分けていく指針になったとされている。

 終身雇用はもう維持できないのではないかという議論が盛り上がった時期でもある。かつての入社式は、長期雇用のスタートを象徴するものだったが、この頃から、労働者は一律ではなく、そして会社に入っても安泰ではない時代になるのではないかといった機運があったのだ。

 なお、個人的に最も笑った入社式の社長スピーチは、2012年のアサヒグループホールディングスの泉谷直木社長(当時)のこのコメントだ。

 「同質のひとが集まる『金太郎飴』では対応できない。犬・猿・キジといった個性が集まる桃太郎集団ではなくてはならない」

 要するに多様性のようなことを言っているのだが、分かりにくい。結局、日本昔話、太郎シリーズか、と。鬼を倒すことが目的化している。もっと頑張らなくても済むストーリを提示したら、新しいと感じたのだが。

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