高齢者事故を防止する人間工学池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2017年04月24日 06時45分 公開
[池田直渡ITmedia]

足の捻れ角と人体構造

 人間工学的に見れば、大腿部を捻る動作には最大角があり、それ以上は人体の構造上回らない。ブレーキを踏む動作で捻り角を使い切ってしまえば、それ以上捻る動作への対応ができなくなり、上体の動きにつられてペダルから足が離れる。何かに似ていると思って思い出して見れば、人体構造上、力の入らなくなる角度を利用した護身術、例えば合気道と似ている。どんなに力自慢であっても、その構造上のウィークポイントを利用されれば、簡単にふりほどかれてしまう。

 そして恐るべきことに、この足の捻り許容角は年齢とともに小さくなっていく。今大丈夫だからと言って、これから先ずっと大丈夫かと言えばそうではないのだ。そして若い人にとっても不要な捻り動作を伴う操作は負荷が高く、運転が長時間になれば疲れが伴うはずである。疲労が蓄積すれば動作の精度が落ちる。

 だからペダルのオフセットはダメなのだ。それが直らない理由も書き添えておこう。1930年代ごろまではペダルの並びにはバリエーションがあり、アルファ・ロメオ8C2300などは右端がブレーキ、中央がアクセルというレイアウトだった。これがやがて右からアクセル、ブレーキ、クラッチというペダルの並びに統一されていく。

1999年にデビューしたトヨタ・プラッツの室内寸法図。タイヤの位置とペダルの関係がよく分かる 1999年にデビューしたトヨタ・プラッツの室内寸法図。タイヤの位置とペダルの関係がよく分かる

 小型車のパッケージを追求していくと、運転席をできるだけ前に出したくなる。リヤの居住性が向上するからだ。運転席を前に出すためにネックになるのはエンジンとタイヤの位置である。1980年代以降の小型車はほぼ横置きFFなので、エンジンは前後方向にはあまりスペースを取らない。なので運転席を前に出すためには、エンジンよりもタイヤハウスが邪魔になる。これを避けてオフセットさせた場合、左ハンドルならば3つのペダルが右にオフセットする。足を捻る方向の自由度は内転と外転で差があり、やってみれば分かるが内転の方がより厳しい。つまり右にオフセットする分には実害が小さい。しかもホイルハウスの出っ張りはそのままフットレストにできる。

 右ハンドルの場合は、ペダルが左にオフセットする。タイヤハウスとアクセルペダルのストロークが干渉しないためにアクセルペダルが左へ逃げ、それによってブレーキもクラッチも左へ押し出される。しかもその左にフットレストを別途設けなくてはならないから、スペースがよりキツくなるのだ。

 左ハンドルのペダルレイアウトを鏡映しにするように左からアクセル、ブレーキ、クラッチにすれば良いのだが、ペダルの並びには国際基準があって、並び順は変えられない。

 この状況を改善しようと思えば、例えば、運転席を10センチ程度後ろにセットバックすれば問題は解決するだろうが、運転席が後方に10センチ移動してリヤシートのレッグスペースが10センチも減ったら、ユーザーからの支持は得られない。

 この問題を根本的に解決する方法は、タイヤそのものを前に押し出すことだ。そうすればタイヤハウスとペダルが干渉しなくなる。しかし、FFのコンポーネンツはエンジン/ミッション/ホイールの相互位置が完全に固定されており、思い付きでそう簡単にタイヤの位置を変えられない。開発に巨額のコストを要するエンジンやミッションは数世代にわたって使うのが当然だから、改めるにしても時間がかかる。

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