目前に迫った50ccバイクの滅亡池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)

» 2017年05月08日 07時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

遅れていた二輪車の排ガス規制

 特に50cc以下(道路運送車両法では原付一種)という排気量はほとんど日本専用のガラパゴス商品で、世界的に見れば排気量の最下限は125cc以下(同じく原付二種)になっている。現在二輪、四輪を問わず、排ガス規制は統一化に向かっており、世界の排ガス規制が「125ccでギリギリクリアできる」限界を狙って厳しくなれば、その半分以下の50ccで規制をクリアするのは難しい。

 これまでたった50ccのエンジンが実用性を持ってこられた理由は2つある。1999年(平成11年)の規制で、2サイクルエンジンが駆逐されて以降も四輪車の規制と比較すればまだ緩やかといえた。1つは吸排気のバルブタイミングの問題だ。燃焼室の排気ガスをしっかり抜くことを掃気と言うが、掃気性能の向上のためには吸気バルブが開いた後も排気バルブを開け続けた方が良い。燃焼後のガスをしっかり排出すれば、限られた燃焼室容積により多くの混合気を満たすことができる。

スズキはレースのイメージを強く投影したRG50γを、ヤマハはRZ50を、カワサキはAR50をそれぞれ投入した スズキはレースのイメージを強く投影したRG50γを、ヤマハはRZ50を、カワサキはAR50をそれぞれ投入した

 ただし、この方式には欠点があって、しっかり掃気しようと思えば、未燃焼の混合気が排気管に吹き抜けることと引き替えになる。未燃焼混合気が吹き抜ければ、炭化水素(HC)が排出されてしまう。HCとは要するにガソリンのことだ。

 もう1つ、空気と燃料の比率、つまり空燃比だ。排気ガスが最もキレイになるのは理論空燃比14.7:1(重量比)だ。1グラム≒1ccのガソリンに対して、ざっくりと12リッターの空気と考えればいいだろう。もっとパワーが欲しい場合、この比率を濃くする。最もパワーが出る比率は12:1。ところが、これだと理論値に対して空気が少ないので、燃え残りが発生し、一酸化炭素(CO)と炭化水素(HC)の排出が避けられない。

名作モンキーの初代モデル。リジッドフレームを持つコンパクトな車体は、クルマのトランクに積んで出かける想定がなされていた 名作モンキーの初代モデル。リジッドフレームを持つコンパクトな車体は、クルマのトランクに積んで出かける想定がなされていた

 50ccという極端な小排気量エンジンが実用に足りていたのは、混合気の吹き抜けを許容するバルブタイミングとパワー空燃比によるところが大きかった。2006年(平成18年)に厳しくなった規制によって、こういう無茶ができなくなった。何しろ原付一種の場合、COで85%、HCで75%、窒素酸化物(NOx)50%という削減率である。「85%に落とす」のではなく「85%削減する」のだ。

 さすがにキャブレターではどうやっても対応できなくなり、大排気量モデルはもとより、50ccスクーターに至るまでインジェクションが搭載されるようになった。しかし2016年(平成28年)にはEURO4規定が適用されて、これがさらに厳しくなった(関連リンク 3ページ目と7ページ目)。

 ざっくり言って、半分近くまで削減するという高いハードルが設定された。新型車は2016年10月1日から、継続生産車と輸入車は2017年9月1日から適用となっている。つまり新型車は去年から、継続生産車も今年の夏以降生産ができなくなるというわけだ。(※著者注:国土交通省の告示では改正道路運送車両法の平成28年規制で排気量50cc以下で車両性能上の最高速度50km/h以下の車両を除外している。しかし、多くの原付一種は最高速度50km/hを超えることから除外を受けられないために生産中止になっている)

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