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» 2017年05月08日 11時35分 UPDATE

対策は国の安全保障問題:感染危機 薬が効かない:「聖なる大河」に漂う耐性菌 (1/3)

インドのガンジス川で高濃度の耐性菌遺伝子が見つかったとの研究が発表された。抗菌薬、いわゆる抗生物質が効かない耐性菌が人類の脅威となりつつある。

[産経新聞]
産経新聞

 気温は40度近くに達し、少し動くだけで大粒の汗が噴き出てきた。間もなく酷暑の夏にさらされるインド東部の大都市コルカタの一角に250人ほどが住むスラムがある。ヒンズー教の「聖なる大河」ガンジス川に隣接する不法占拠地区だ。

 川は茶色く濁っているのに、大人も子供も頭まで水につかって、体中びっしょりかいた汗を流す。傍らでは、女性が何食わぬ顔で食器や衣服を洗っていた。

 子供の頃からここに住むジャグデュ・ガヤン(45)は「ここには水道がないから川の水を使うしかない。病気が増え出したのは10年ほど前だ」と話す。

 下痢や発熱、皮膚病、吐き気…。住民には何の病気かは分からないが、体調不良を訴える人が子供を中心に何倍にもなったという。

photo 2000年から10年間のヒトの抗菌薬使用量の変化

 3年前、ガンジス川で高濃度の耐性菌遺伝子が見つかったとの研究が発表された。調査したのは英ニューカッスル大とインド工科大デリー校のチーム。比較的水質が良いはずの印北部で検査した際、ヒンズー教の祭礼の時期に、耐性菌が持つニューデリー・メタロ−β−ラクタマーゼ1(NDM−1)と呼ばれる酵素の遺伝子が通常の時期の60倍の量で見つかり、危険な状態であることが判明した。

 原因は、現地の汚水処理システムの能力をはるかに超える汚物が未処理のまま川に流されたためとみられる。耐性菌やその遺伝子は人間の腸内で生成されたと考えられ、耐性菌は沐浴(もくよく)する別の人に感染し連鎖的に増えていく可能性がある。

 「薬屋が抗菌薬(抗生物質)を売るには医師の処方箋が必要なのに、インドでは誰もこれを守らない」

 地元の科学ジャーナリスト、シャクン・パンディー(39)は顔をしかめながらこう述べ、「患者は不必要な場合でも抗菌薬を飲む。しかも中途半端な服用でやめてしまうことが多いため体内で耐性菌が増えていく」と続けた。

 耐性菌はガンジス川からの浄水にも混入している可能性もあり、ニューカッスル大教授で研究チームのデビッド・グラハムは「無節操な人間と産業の排泄(はいせつ)・廃棄物の処理と管理をどうするかが耐性菌拡大を防ぐ上で最大の課題だ」と話す。

 一方、パンディーは「養殖場や養鶏場では、魚やニワトリに感染症予防の抗菌薬を与えている。それを食べた人間に、耐性菌が蓄積される」と語った。

 インドでは数年前から、治療を受けた経験のある患者がその後、欧米などの医療機関で改めて治療や検査を受けた際にNDM−1が発見される事例が相次ぐなど、危険が高まっている。

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