伸ばせば3メートル以上! ジャバラ地図『全国鉄道旅行』の存在意義杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)

» 2017年05月26日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

地図編集者としても廃線は寂しい

photo 昭文社出版制作事業部出版制作グループ地図・開発編集担当の宇田川友道さん

 新規路線や延伸区間の描き入れに比べると、廃止路線の削除は簡単だ。しかし、代々の担当者が距離感や長さを熟慮して描いた線を消すことになる。その意味で、地図編集者ならではの喪失感があるという。鉄道の廃線は、地元の人々にとって喪失感が大きい。鉄道や駅がなくなると、町や村が地図から消えてしまう。その気持ちは、地図を作る側にも通じている。16年は留萌本線の留萌〜増毛が消えた。18年は中国地方の三江線が消える。長大路線が描かれた場所がぽっかりと空く。

 描いた部分を取り払って、うれしい場合もある。それは、不通区間の注釈だ。東日本大震災後の経年版では、三陸方面の多くの路線が不通となった。不通区間には運休、バス代行など注釈を入れて対応した。その不通区間が少しずつ復旧して、注釈を取り払う。これはうれしかったそうだ。気仙沼線、大船渡線の一部区間はBRT(バス高速輸送システム)による代替運転となっているが、『全国鉄道旅行』では、鉄道と同じ太さの線になっている。

 「自治体が復旧を断念したという報道があって、代替バス運転となり、仮復旧と言いつつ線路を取ってしまう。これで本当に復旧するのか。地元の住民感情からすると鉄道は通しておきたい。自治体も住民感情に配慮して、公式に廃止という発表をしない。そこは悩むところです」(宇田川さん)。

 存続が未確定のまま、線路の太い線をバスの細い線に変えてしまうと、地元も鉄道ファンも大騒ぎになってしまうだろう。ただし、旅行ガイドという建前上、実態に合わせるべきという考え方もある。迷うけれど、基本は公式発表である。

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