深層学習と顧客理解、衛星データのマネタイズの鍵とは?宇宙ビジネスの新潮流(2/2 ページ)

» 2017年06月10日 07時23分 公開
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ディープラーニングで穀物収穫量を予測する

 農業セッションでは、顧客側としてCalifornia Department of Food and Agricultureが、アプリケーション企業として農業ベンチャーの米Farmers Edge、気象データベンチャーの米Climate Corporation、衛星データ解析ベンチャーの米Descartes Labsが登壇した。

Descartes Labsの無料β版(出典:同社サイト) Descartes Labsの無料β版(出典:同社サイト

 冒頭に議論されたのは、昨今の農業技術革命の盛り上がりについてだ。背景としては、穀物価格の上昇、トラクターなど農業ハードウェアの高度化、機械学習のような新技術の登場、ファンディングの増加が指摘された。今回登壇したDescartes Labsは機械学習を適用して農業における穀物収穫量予測のビジネスを展開している。

 同社は元々、ロスアラモス国立研究所から2014年にスピンアウトしたベンチャー企業で、共同創業者のマイク・ウォーレン氏は宇宙の素粒子1兆個のシミュレーションなどの経験がある。これまでに800万ドルを資金調達していて、今年3月にはDARPA(米国防高等研究計画局)から150万ドルの開発支援も受けた。中東・アフリカでは、食糧問題が政治的安定や民族移動の関係性のつながるため、穀物収穫量をモニタリング、予測、解析するケイパビリティを構築するのが目標だ。

求められるのは目に見える成果

 サービス導入に向けては、「農業産業は新しい技術の導入が遅いが、農業従事者の世代が変わって導入の兆しが見えてきた。他方、農業従事者は1年に1回作物を作るのが一般的であり、求めるのはどれくらい農薬スプレーを止められるか、いくらコストが抑えられるかといった直接的な成果だ」とのコメントもあり、目に見える成果が出るかどうかが導入の壁だということが分かる。

 米バイオ化学メーカーのMonsantoに買収されたClimate Corporationは、「農業は信用からなっている。市場に浸透するにはMonsantoや他の大手企業との提携などを通じて、業界課題に対する知識などを得る必要がある。そして顧客からデータをもらうだけでなく、それらのデータを統合して顧客が勝てるようなツールを提供する必要がある」と語り、顧客チャネルおよび顧客事業への貢献の重要性を指摘する。

 ディープラーニングのような最先端技術の話と、顧客理解や目に見える成果などの極めて現実的な話といった、両極端な課題が挙がる衛星データ解析市場。今後の動向を注視したい。

著者プロフィール

石田 真康(MASAYASU ISHIDA)

A.T. カーニー株式会社 プリンシパル

ハイテク業界、自動車業界、宇宙業界などを中心に、10年超のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙民生利用部会および宇宙産業振興小委員会 委員。民間宇宙ビジネスカンファレンスを主催する一般社団法人SPACETIDE代表理事。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。主要メディアへの執筆のほか、講演・セミナー多数。

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