もしコミー前FBI長官が文科省の事務次官だったら世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2017年06月15日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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記録を残さなければいけない

 コミーを英雄視するつもりは毛頭ないが、ニューヨークで検事として修羅場をくぐり抜け、愛国心と組織へ尊敬心をもってFBIを率いたコミーの“流儀”を、日本の官僚に徹底させることは酷だろう。ならば想像力を働かせ、せめてすべての文書ややり取り、電子メールなども徹底して記録に残す努力が求められる。

 そもそも、税金を使って業務をする中で、どんな小さなやり取りでも、できる限り記録するのが当たり前ではないだろうか。それがなければ国民も行政に対する監視ができない。徹底した記録保全が義務化され、すべてのやり取りが残されるのが当たり前という義務でもあれば、文書が存在するかしないかという部分で議論になることはない。

 現在野党が「公文書管理法」の一部改正案を提案している。というのも、現状では、交渉などの文書でも保存期間は1年未満で、都合の悪い記録も1年後には「廃棄した」と言ってしまえば許されてしまうからだ。2017年2月に発覚した森友学園にからむ疑惑、自衛隊の南スーダン国連平和維持活動(PKO)による派遣施設隊の日々報告も破棄したと言い逃れされた(自衛隊の日々報告は後に“発見”)。重要な公文書の存在がこうも立て続けに、廃棄という理由で誤魔化されてしまうのは、先進国ではあり得ない深刻な状況だと言える。

 改正案で重要なのは、政府機関の職員による個人のメモや電子メールも行政文書として保存し、外部との面会の際に作った文書も保存期間を伸ばし、廃棄のルールも厳格化する点だ。現在、力ない野党がそれをどこまでプッシュできるのかは分からないが、こういう法案は直ちに議論される必要がある。

 今、一般企業でも、ビジネスパーソンはクライアントのやり取りや、電子メールでのやり取りなど、「言った言わない」で問題が起きないよう以前よりも情報保存について意識が高くなっていると感じている。企業によっては、あえて電子メールに残すことで交渉の記録を残しているという話も聞く。

 米議会の公聴会では、コミーは「何が起きたのか(会話)の記録が必要になる日が来るかもしれないと思っていた」とし、こう語った。「自分自身を守るためだけでなく、FBIを守り、組織としての尊厳を守るためだ」。

 日本の官僚にも、ぜひコミーの爪のあかでも煎じて飲んでもらいたいものだ。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。


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