「タカタ問題」の論点整理池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)

» 2017年06月19日 06時48分 公開
[池田直渡ITmedia]
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 ただし、当事者である自動車メーカーも少なくとも実務面においては責任を果たしている。最低限ユーザーに負担を掛けずに改修を行っているという点は評価すべきだ。例えば、リコールの影響が大きかったと言われているホンダの場合、2015年に2500億円、2016年には2800億円という巨額の品質関連費用が発生している。そして現状ではリコール費用は各自動車メーカーが負担している。つまり全社どころか、どこか1社がこの費用負担を丸ごとタカタに押し付ければ、そこで再生困難に至るという切羽詰まった状況なのである。

 もちろん今後の話し合いの中で、改修費用の負担比率について、メーカーとタカタの間で別次元の責任論が発生するはずで、さすがに立て替えた改修費用のいっさいを請求しないとも考えられない。ただし、それはユーザーにとってはメーカー内部の議論でしかない。

エアバッグは金属ケース内の燃焼剤を電気点火によって燃焼させて高圧ガスを発生させ、繊維製の袋を広げる仕組み。湿気によってこの燃焼圧力が高まりすぎたことで事故が起きた。写真はホンダの二輪車用インフレーター エアバッグは金属ケース内の燃焼剤を電気点火によって燃焼させて高圧ガスを発生させ、繊維製の袋を広げる仕組み。湿気によってこの燃焼圧力が高まりすぎたことで事故が起きた。写真はホンダの二輪車用インフレーター

 そして、このユーザー補償こそが今回の民事再生の引き金になっていると思われる。賛否両論あるが、日本には車検制度があり、こうした重大なリコールが発生した場合に車検ワンサイクルの間にほぼ確実にリコールを行うことができるが、車検制度が無い米国ではそうはいかない。州によっては定期的な排ガス検査があるので、そこでマーケットのクルマを捕捉できる場合もあるが、排ガス検査を受けていないユーザーも多く、それ故に米国でのタカタ製エアバッグのリコール実施率は50%程度と言われている。

 自動車メーカー各社にしてみれば、エアバッグが必要かつ、タカタに支払い能力が無い以上、品質関連費用の大部分を負担するのは仕方がないとしても、その費用総額が見えないまま永遠にそのための準備金を積み立てておかなければならないのでは経営プランが策定できない。ところが、既に述べたように費用総額はユーザーがこれに協力してくれない限り確定できないのも現実だ。単純な話として、既に廃車になっているクルマの分の改修費はメーカーがプールしておかなくてはならないが、永遠に使われることが無いのである。つまり、現実論としてできることと言えば、十分な告知を行った上で、ユーザーが補償請求をできる期限をきるしかない。

 しかし、それは当然ユーザーにとって不利益が生じる。それを正当なものと認めてもらうには私的再建では無理だ。何らかの法的強制力を伴う裁定を仰いでどこかに限界線を引いてもらうしかない。

 恐らく自動車メーカー各社は、タカタに対して立替金と引き替えに、法的強制力を伴う債権額の最終確定を迫ったのではないかと思われる。この対応をタカタが誤れば、メーカー各社にとって、いくら技術があろうと、今後タカタ製品を採用することはデメリットが多すぎるということになり、ならば今回収できる分だけでも回収する方が良いという判断になる。そうなれば再建どころの話ではなくなる。

 常識的に見る限り、その落としどころとして、今回の民事再生に至ったと考えられる。価値ある技術を持ち、営業利益を稼ぎ出せる会社が、顧客対応でミスをして債務超過の瀬戸際にいるのであれば、その舵取りの原因を取り除いて営業を継続させることが、自動車メーカーにとってもユーザーにとってもメリットなのだ。営業利益そのものが粉飾だった東芝とこれを同列に見るのは間違いである。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

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