GMS大量スクラップ時代の風に乗るドン・キホーテ小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)

» 2017年06月28日 07時00分 公開
[中井彰人ITmedia]
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課題は「市場飽和」

 こうして独自の世界を切り開き、停滞する小売業界の中では数少ない成長企業であるドン・キホーテにとっての懸念材料を挙げるとすれば、「市場飽和」ということになるだろう。

 前述の通り、ドン・キホーテのベース顧客層は全体からすれば少数派であり、その対象マーケットは理屈の上では限られたものだからだ。ドン・キホーテ自身、市場飽和については十分に認識していると思われるが、それは店舗展開からもうかがえる。

 下図は都道府県別の大規模小売店販売額におけるドン・キホーテの2006年、16年のシェアと、その間の売り上げ増加額を示したものだ。ここから見えるのは、(1)この10年は出身地エリアでかつ最大のマーケットである首都圏よりも、地方での出店エリア拡大を重視した、(2)各県のシェアはおおむね5%程度が上限、といったことである。ドン・キホーテのターゲットが全国に一定比率存在するマーケットだと考えれば、(1)のエリア拡大もうなずける。そして、その存在が仮に10%程度であるとすれば、それだけでもドン・キホーテの成長余地は1兆3000億円程度という計算になる。現時点のドン・キホーテは出店エリアを全都道府県に拡大し、その検証を行っているとみるべきであろう。

ドン・キホーテの06年から16年にかけての都道府県別売り上げシェア増減。シェア=ドン・キホーテの県別売り上げ(有価証券報告書)÷都道府県別販売額(大規模小売店販売統計) ドン・キホーテの06年から16年にかけての都道府県別売り上げシェア増減。シェア=ドン・キホーテの県別売り上げ(有価証券報告書)÷都道府県別販売額(大規模小売店販売統計)

 これまで見てきたように、ドン・キホーテは既存の総合小売業とはまったく異なるコンセプトの業態であり、その成長余地がまだまだあることもうなずける。今回の業務提携によって、ドン・キホーテはユニーGMS店舗が他社に流出することを阻止した上で、戦略に合致した店舗を優先的にピックアップしていく立場を確保したということになる。

 ただ、16年2月期のユニーの東海地区(愛知、岐阜、三重)における大規模小売店販売額のシェアは24%程度ある(17年2月期は未公表)ことを考えると、相当数の店舗がドン・キホーテにとってはオーバーシェアという計算になる。現時点でドン・キホーテが店舗再生に対応するのは、その地域の成長余地の有無による、ということだとすれば、地域ごとの目標値を達成した地域で、ドン・キホーテは店舗を増やそうとしないだろう。GMSユニーの苦難はこの提携によって軽減されるものの、一気に解消とはいかないのである。

 これからドン・キホーテが力を入れるのは対象顧客層の幅を広げていくことであり、これまで来てくれなかったファミリー層、主婦層を取り込むために、GMS店舗を使って実験を続けていくであろう。この実験に対してユニーファミマ・グループがどれだけノウハウを提供できるかが、ドン・キホーテにとってのオーバーシェア部分の解消に直結するということになるが、その過程はそう簡単ではないことは想像がつく。ユニーファミマ・グループが、GMS再構築という難問から解放されることはまだ先のこととなりそうだ。

著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。


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