やっかいな「ダークツーリズム」に近づいてはいけない世界を読み解くニュース・サロン(3/4 ページ)

» 2017年06月29日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

「ダークツーリズム」が提供しているツアー

 ヤング・パイオニア・ツアーズは現在も、Webサイトで北朝鮮についてこう書いている。「あなたが耳にする話と違って、ほとんどの国籍の人にとって、私たちの文書や旅行前の説明で示される法律を従いさえすれば、北朝鮮はおそらく地球上でもっとも安全な場所のひとつです。北朝鮮では観光はとても歓迎されています。北朝鮮の人々は、あなたが心を開き、彼らの信条やイデオロギーへの無礼な行為を避ければ、フレンドリーで好意的です。政治的に緊張感が高まっている間でも、北朝鮮への観光は影響を受けません」

 今回のワームビアの件を受けて、ヤング・パイオニア・ツアーズは「私たちはこれまで8000人以上を北朝鮮に連れて行っているが、事件は今回のたった1件だけだ」「(旅行サイトの)トリップアドバイザーでも500件以上のレビューで高評価を得ている」「旅行者にはどんな行為がトラブルになるのか渡航前に理解してもらっている」などと主張している。旅行前にしてはいけないことなどを説明しているのだから後は自己責任だ、と言いたいようだ。

 一方で、ツアー会社に罪はないとの意見もある。すでに述べたデラウェア大学のデットワイアー教授が示唆しているように、結局は、軽率にそのツアーに「ノリ」で行ってしまう人がいることに問題があり、それは一理ある。

 ただ北朝鮮に限らず、こうした「人のいかない場所を見てみたい」という人は世の中に少なくない。ヤング・パイオニア・ツアーズはツアー先として北朝鮮に特化しているが、実はそれ以外に人がいかない地域へのツアーもアレンジしている。いわゆる「ダークツーリズム」だ。

 同社が提供しているのは、例えばウクライナのチェルノブイリを訪れるツアーや、イラン、イラクのクルド人地地区、ソマリランド、キューバ、南オセチアなどである。そのうちの目玉が北朝鮮だった。確かに若く好奇心が旺盛な人たちの中には、怖いもの見たさでこうした場所を訪問したがる者も少なくないだろう。ただたったひとつの、思いつきのような行動が予想もしないような国際的な大問題になり、最悪の結果を招くこともある。それは今回のワームビアのケースを見れば明らかだろう。

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