カムリの目指すセダンの復権とトヨタの全力池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2017年07月24日 06時05分 公開
[池田直渡ITmedia]

 「別にセダンが売れなくたって、SUVが売れて、しかもそれがトヨタなら良いじゃないですか?」と筆者が問うと、ミッドサイズビークルカンパニー・プレジデントの吉田守孝専務はこう答える。

 「より市場が伸びているSUVにも力を入れながら、下がっているセダンにも力を入れて、落ちないようにするというのは、製造業ビジネスとして当然の判断です」

あらゆる部分に装飾的要素が並ぶフロントデザイン あらゆる部分に装飾的要素が並ぶフロントデザイン

 確かに設計や生産を含むリソースに余剰がでれば効率が悪化する。需要が伸びた分SUVの生産がひっ迫するのはある意味嬉しい悲鳴だが、他方でセダンの生産設備が余るとすれば、それは真性の悲鳴である。

 「もう1つ、世の中の趣向というのはどこかで反転することがあります。原油価格の下落によって燃費の良いハイブリッドに代わって大きいボディのSUVが伸びたように、また何かの要素によってマインドがシフトすることは考えられます。セダンというのはクルマの原点ですから、しっかりしたセダンを作っておけば、それをベースにハッチバック、クーペ、SUVと、いかようにも展開できるので、時代に即応した体勢がとれるとこになるのです」

 なるほど、このあたりはさすがはトヨタで、現状に振り回されることなく、何が起きても対応できる即応体制を整えようというわけである。

トヨタが新型カムリで打った手

 カムリの必勝を期してトヨタはどんな手を打ったか?

 まず、現在トヨタが総力を結集して実行中のTNGA(Toyota New Global Architecture)である。第1弾のプリウス、第2弾のC-HRでは、動力源であるエンジンとハイブリッドシステム(THS-II)は、旧モデルの改良であり全面刷新では無かった。カムリでは全てをブランニューとし、燃焼速度の向上を狙った工夫を凝らした2.5リッターの新型エンジンと、効率を向上させたハイブリッドユニットを搭載した。最大熱効率の41%は少し前まで30%と言われてきたガソリンエンジンの数値としては最先端だし、JC08燃費は33.4km/L(Xグレード)という文句の付けようのないもの。

 だが、このユニットが真に優れているのは、旧来のトヨタハイブリッドの許しがたかった「燃費いのち」仕様では無くなったことだ。30型までのプリウスでは、アクセルオフでもロクに減速しないし、そこから微加速を試みてもドライバーの操作をまったく無視するワカランチンなシステムだった。ドライバーの要求を敢然と無視し「そんな加減速したら燃費が落ちるんだよ」と言わんばかりだった。第1のご主人さまは燃費、その次にドライバーというシステムは、燃費の条件が良いときだけしかドライバーの指示を聞いてくれなかったのだ。

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