トヨタとマツダが模索する新時代池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)

» 2017年08月07日 06時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 以下、両社長の会見に筆者が必要に応じて注釈を付ける形でお届けする。

豊田章男社長: 皆さまこんばんは。豊田でございます。本日は遅い時間に、また急なご案内にもかかわらず共同記者会見にご出席を賜り誠にありがとうございます。

 本日、トヨタ自動車株式会社とマツダ株式会社は業務資本提携に関する合意書を締結いたしました。

小飼社長: 皆さまこんばんは、小飼でございます。本日両社が調印した合意書は、クルマの新しい価値創造と持続的成長を可能とする体制を整えるべくお互いに協力するためのものでございます。概略としましては米国での完成車の生産合弁会社の設立。電気自動車の共同技術開発。コネクティッド、先進安全技術を含む次世代の領域での協業。商品補完の拡充。これらの各分野において、両社の業務提携を具現化させていくことに加え、両者の資本提携について合意したものにございます。

豊田社長: ちょうど2年前の5月、両者が協力関係の構築に向けて検討を開始することを、皆さまの前で発表させていただきました。その時に私はこう申し上げました。「Be a driver 自分が行く道は自分で決めた方が楽しいに決まっている。走らせて退屈なクルマなんて、絶対に作らない。マツダさんのこうした考え方に私自身大いに共感をしています」。

豊田章男社長 豊田章男社長

 マツダさんはまさに私どもが目指す「もっといいクルマづくり」を実践されている会社であり、今回の提携によって私たちは多くのことを学ぶ良い機会をいただいたと感謝しております。それから2年が経ったわけですが、私自身、この思いをさらに強くして本日この場に臨んでおります。

※筆者注 クルマが白物家電化すると言われている中で、自動車メーカー自身が、ビークルダイナミクスの重要性に再注目していることがよく分かる。特に電気自動車に関してはコモディティ化が進行すると言われているが、走らせて退屈なクルマは絶対に作らないというマツダとそれに強く共感したトヨタの「もっといいクルマづくり」が未来のクルマ作りにおける自動車メーカーの価値を再定義すると考えていることが分かる。

小飼社長: トヨタさんは自動車業界が抱える将来の課題に対して、さまざまな領域で果敢に挑戦し、イノベーションを進め、リーダーシップを発揮し続けられてきた会社です。そのようなリーダー企業でありながらも、もっといいクルマを作ろうと、自ら先頭に立ち、課題に挑戦し続けておられる姿勢に私は強く胸を打たれております。このようなトヨタさんの志と、マツダのDNAである「あくなき挑戦」が合致し、この2年間多くのことを学ぶ機会をいただいたことをとてもありがたく感じております。胸襟を開いてお互いを知り、頻繁な交流により多くを学び、お互いが刺激しあえる状態であることを確信し、自信を深めて今この場に立っております。

豊田社長: かつての自動車メーカーの競争とは、1000万台を誰が最初に達成するか、といったことに代表されるように、販売台数を巡る競争だったのではないかと思います。そして自動車各社の提携もまた、資本の論理で規模を拡大するための提携が中心であったように感じております。

 皆さまご承知の通り、今私たちの前には、GoogleやApple、Amazonといった新しいプレイヤーが登場しております。全く新しい業態のプレイヤーが、「未来のモビリティ社会を良くしたい」という情熱を持って私たちの目の前に現れているのです。未来は決して私たち自動車会社だけで作れるものではありません。物事を対立軸で捉えるのでは無く、新しい仲間を広く求め、競争し、協力し合っていくことが大切になってきていると思います。

 しかし、これまでのモビリティ社会の主役は、間違い無くクルマであったと思います。私たち自動車会社にはこれまで、モビリティ社会を支えてきたという自負があります。新しいプレイヤーと競い合い、協力し合いながら、未来のモビリティ社会を作っていくからこそ、私たち自動車会社は、「とことんクルマに拘らなくてはならない」と思います。

 今の私たちに求められているものは、全ての自動車会社の原点とも言える「もっといいクルマを作りたい」という情熱だと思います。皆さま、マツダさんのコーポレートビジョンの最初の一文をご存じでしょうか? 「私たちはクルマを愛しています」という言葉から始まります。私たちトヨタもクルマを愛しています。どんなに時代が変わっても「愛」の付く工業製品としてのクルマを作ることにこだわり続けるつもりです。

 今のトヨタの課題は1000万台を越える企業規模をアドバンテージにするべく、自分たちの仕事の進め方を大きく変革することです。私たちが昨年4月に導入したカンパニー制も、マツダさんと一緒に仕事を進める中で、自分たちの課題が明確になり、「このままではいけない」と踏み出したものだと言えます。マツダさんとの提携で得た一番大きな果実は、クルマを愛する仲間を得たことです。そして「マツダさんに負けたくない」という、トヨタの「負け嫌い」に火を付けていただいたことだと思っております。本日私が皆さまにお伝えしたいことは、両社の提携は「クルマを愛する者同士」のもっと良いクルマを作るための提携であり、「未来のクルマを決してコモディティにはしたくない」という思いを形にしたものだと言えることでございます。皆さまの暖かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。

※筆者注 元々この提携のスタートラインは、マツダがアクセラ・ハイブリッドのためにトヨタのハイブリッドシステムの供与を受けたところに端を発している。ハイブリッドの大きな欠点である回生ブレーキと物理ブレーキの協調制御の不自然さを消すため、マツダのエンジニアはブレーキのばねを作り直した。完成車のお披露目試乗会を行ったとき、トヨタのエンジニアはその出来に驚き、豊田社長に伝家の宝刀ハイブリッドでマツダに一敗地にまみれたことを報告し、豊田社長自らが広島に赴いてその違いを確認した。「もっといいクルマづくり」が念頭にあった豊田社長は、名古屋に戻るとすぐさまマツダとの提携模索の指示を出したのである。

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