生鮮も売る「フード&ドラッグ」に地方の可能性を感じた小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)

» 2017年08月23日 06時30分 公開
[中井彰人ITmedia]
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地方小売こそテクノロジーを取り込め

 消費者の生活必需品ワンストップニーズを満たす小売店が、地方において高い支持を得ることはエバグリーンの成功からある程度できる。ECが普遍的になったとしても、恐らく生鮮食品小売は一定規模で残ると考えるなら、近い将来においてもこうした業態へのニーズはあるはずだ。アマゾンでさえ、ホールフーズの実店舗に価値を見出している。

 ただ、こうしたタイプの店舗が広く模倣されたり、横展開されたりするかと言えば、そうではない。生鮮品のハードルは思ったより高いのであろう。とは言え、生鮮惣菜管理のハードルは技術革新によって解決できる可能性は十分にある。今、大手や有力スーパーが取り組んでいるプロセスセンターによる店内作業の効率化、例えば、店内作業工程を細分化して、鮮度保持に問題ない作業をセンター集中するなどの取組みは、ビッグデータ、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)などの技術革新によって今後、劇的に進化する可能性があるとも考えられる。加工のロボット化、ビッグデータとAIによる精緻な需要予測、画像処理による生鮮・惣菜等の販売状況の即時把握など、想像すればきりがないが、こうした妄想も実現できる日は遠くないのかもしれない。

 7月末日の日経MJの1面は、「西日本最強ドラッグストア コスモス薬品『毎日安い』 関東も咲かす」という大見出しだった。九州で生まれたコスモス薬品はフード&ドラッグの代表格の企業であり、M&Aを行わず、新規出店のみで業界5位まで上り詰めた。今後は関東以北にも進出し、さらに成長を遂げることが見込まれている。

 ただ、その品ぞろえに生鮮品や本格的惣菜はなく、消費者ニーズの観点から考えれば、プロトタイプでしかないとも言える。もしも技術革新を取り込んで、生活必需品ワンストップとローコストを真に両立させることができる企業があれば、地方に限った話ではあるが、現在のパワーバランスを大きく変える業態が生まれる可能性がある。IoT、AI時代の到来は、環境が厳しくなる地方でこそ、小売業に大きな影響を及ぼすかもしれない。

著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。


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