中国版フィンテック、平安保険の戦略4億人の金融ビッグデータ(4/4 ページ)

» 2017年09月06日 06時30分 公開
[片山ゆきニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所
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 ネット金融の顧客は、生命保険と同様に、銀行預金や理財としての利用、契約が24%と高い点からも、生命保険についても資産形成の一環としてネットを活用している姿が見えてくる。一方、生命保険の契約者のうち、ネット金融のサービスを利用したり、契約したのはわずか3%と、生命保険の契約者からネット金融の利用は少なかった。

 このように、平安保険は「IT×金融×生活サービスの融合」戦略の下、ネット金融を活用した顧客の増加や、その他の金融商品の販売への波及効果が見られるようになってきた。グループ全体で見ると、個人顧客を対象としたリテール業務が純利益の66%を占め、顧客1人あたりの金融商品の契約件数の増加が収益の増加につながっており、それが最終的にグループ全体の純利益の増加を押し上げる効果をもたらしている(図表6)

図表6 グループ全体の純利益の構成と顧客1人あたりの純利益、契約件数の推移 図表6 グループ全体の純利益の構成と顧客1人あたりの純利益、契約件数の推移

 平安保険は、集まった4億人にものぼる金融ビッグデータを活用し、特に市場の成長が著しいP2P事業や、資産形成にともなう個人の財テク分野、健康分野への応用を強化していくとしている。さらに、金融サービスを進化させるべく、ユーザーが平安保険の金融経済圏内でとったあらゆる金融行動、その履歴から新たな技術の開発にも力を入れている。

 17年も前年の売り上げのおよそ1%にあたる70億元を投じ、次世代の技術として注目される、生体認証(声紋、顔)やAIによる予測技術、意思決定技術のさらなる進化を進めている。声紋認証については、レンディングの審査の際の声の細かい変化の検知などへの活用を開始した。顔認証は、深セン市において、高齢者の年金給付に際する窓口手続きの負担軽減や、当局の窓口業務の効率化に貢献している。

 また、重慶市政府と連携し、インフルエンザなどの流行予測のサポート事業を開始するなど、平安が保有するネット金融(フィンテック)を通じたビッグデータや技術の蓄積は、民間セクターの枠を越え、地方政府など公的なセクターにも広く影響を及ぼし始めている。

筆者プロフィール

片山ゆき(かたやま ゆき)

ニッセイ基礎研究所 保険研究部 准主任研究員

研究・専門分野:中国の保険・年金・社会保障制度


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