「地方巡業」の増加で、力士が壊れてしまうかもしれない赤坂8丁目発 スポーツ246(2/4 ページ)

» 2017年09月15日 08時00分 公開
[臼北信行ITmedia]

力士会が待遇改善を要望する動き

 日本相撲協会が17年3月31日に発表した16年度決算によると、経常収益から経常費用を差し引いた額は約6億4000万円のプラスで2年連続の黒字となった。前年の15年よりも約3億9000万円増の黒字となり、この内訳として巡業数の増加も1つの要因となって興行収益は前年比で約7500万円アップとなったことが明らかにされている。

 確かに収益増加にはつながっているが、この地方巡業数の増加は力士たちの過密日程に歯止めがかからず拍車をかけているのも事実だ。これだけタイトなスケジュールになると休養期間はほとんどなく、仮に何らかのケガをかかえてしまってもリハビリに費やす期間は限られてくる。目に見えて大きな負傷であればまだしも軽度であれば、そう簡単に休むわけにはいかない。地方巡業に穴を開ければ「地方のファンをなめている」「どうせサボっているのだろう」などと猛烈なバッシングを浴びるのがオチだ。

 無論、軽度の負傷を我慢しながら強行出場し続ければ、それが後に大ケガを招く危険性もある。本来ならば本場所こそが力士たちの要とならなければならないはずだ。しかしながらこのような危険と背中合わせのハードスケジュール化が、その足かせとなりつつあることは憂慮されるべき事態と言っていい。

 地方巡業が力士たちにとって厳しい環境であることは、あまり知られていない。新幹線や飛行機など公共交通機関を利用するだけでなく、狭い車内に押し込められてのバス移動は巨漢の力士たちにとっては我々の想像以上にこたえる。「本場所に向けて体調を万全に整える意味でもあらゆる面でハードな地方巡業に行くのではなく、稽古をしたい」との思いを本音として抱く力士も当然ながらいる。

 15年12月には十両以上の関取で構成する力士会が日本相撲協会巡業部へ待遇改善を求める提案書を提出したこともあった。過密日程などで忙殺されがちな巡業における稽古の質の向上を主な目的とされていたが、そこにはいわば年々タイトになっていくスケジュールをいま一度見直して欲しいという要望も込められていたのは明白だ。

 この要望書には移動時間の短縮に加え、稽古の手順を番付の東西交代制に切り替えて休養を取りやすくする環境を整えることや、巡業手当の増額及び稽古を怠った力士に対する手当ての減額などが明記されていた。力士会が協会に待遇改善を要望する動きは過去を振り返ってみても極めて異例。それだけ、力士会の不満が募っていた証拠である。

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