過熱するデジタル人材の獲得競争乗り遅れるな(1/6 ページ)

» 2017年09月26日 05時30分 公開
[A.T. カーニー]
A.T. カーニー株式会社

 近年のあらゆる領域におけるイノベーションの源泉がソフトウェアを中心としたITであることが明らかになった結果、規模や産業によらず、あらゆる領域においてエンジニアと呼ばれる職種の需要と供給のギャップが著しい。

 例えば最近の調査(THE WORLD'S MOST IN DEMAND PROFESSIONS)においては、世界中で最も不足しているプロフェッショナルな仕事として、Software Engineer and Developperを示しており、他にもIT Data Analystが上位10位以内に入っている(図1)

図1 世界で最も需要のある職業 図1 世界で最も需要のある職業

 また、米国においては、2020年の段階において、140万人のコンピューター関連人員の仕事が新たに発生するのに対し、大学の当該領域の卒業生は40万人にとどまり、実にそのギャップは100万人に到達するというデータも存在する(図2)

 しかしながら、一口に「ITエンジニア」と言ってもハードウェアからソフトウェア、データアナリストといった取り扱う対象による違い、あるいは業務設計に立ち入るコンサルタントからインタフェースのデザイナーまでプロフェッショナル領域も多岐にわたり、世の中に明確な定義が存在せず、また分類自体も毎年のように追加、変更がある。

図2 2020年までに、コンピュータ関連職の空隙数は100万以上になる 図2 2020年までに、コンピュータ関連職の空隙数は100万以上になる

 本稿においては、経営コンサルタントとしての視点から、ITエンジニア、それも従来の大企業向けのシステムインテグレーションを行うSEなどではなく、Webを始めとした各種のITサービス企業のビジネスをサポートするITエンジニアの観点からエンジニアの類型化を試み、加えて今後どのような視点で採用・育成が行われるべきかということについて論じることとしたい。

エンジニアの類型

 ITサービス系企業において、我々が考えるエンジニアの類型は大きく3つと考えている。ビジネスデザイナー、テクニカルデザイナー、エンジニア・プログラマーの3種類である。

 ビジネスデザイナーは、サービスの概念そのものをデザインする役割を担い、サービスの競争優位の源泉を最初に創出する存在である。優れたビジネスデザイナーは顧客に対する深い理解を持ち、競合が見出していない/実現していないインサイトを抽出できることが最低要件であり、これに加えてITサービスにおける収益構造とキーとなるドライバーに対する理解や、ドライバーを動かすために必要な手法や、必要な投下リソースに対しての一定のイメージを持つことが望ましい。

 従来はこれらの責任を担う職種はプロダクトマネジャー、プロダクトデザイナーなどと呼ばれ、どちらかと言えば事業/企画よりの人材であり、エンジニアと定義されることは少なかった。しかしながら近年はエンジニアバックグラウンドを持つ人材との融合が進んで来ていること、特にWebサービスやデジタルマーケティングと言われている領域においては、具体的な取り組みの是非や、取り組みの結果がKPIにどのように反映するのかといった点を理解するために、むしろエンジニア的な素養が強く求められているようになっており、Webサービス企業などではプロダクトマネジャー相当の人材の過半はエンジニアバックグラウンド人材が占めることもあるようである。

 ただし後述するが、ビジネスデザイナー自体の明確な定義はなく、現状はさまざまな職種名が混然一体となって呼ばれているのが実情である。

 テクニカルデザイナーはビジネスデザイナーの思いを技術に落とし込む、技術面でのデザインを行う役割を担い、ITサービスにおける技術面での競争優位を担保する人材である。最新の技術動向を、単に技術としてとらえるのではなく、ビジネスへのインパクト(ユーザーのインサイトに対してどのように応え得るのか、サービス・事業の主要なKPIにどの程度のインパクトを与え得るのかなど)との相関性を常にとらえられる必要がある。

 テクニカルデザイナー人材は、近年増加しつつあるものの、職人気質に走りがちなエンジニアが多い中、素養を持つ人材は限られ、また体系的な人材育成が行われているケースは少ないと考えられる。

 最後のエンジニア・プログラマーは従来の一般的な認識に最も近いエンジニアであり、何らかの要件に従い、その実装を役割とする人材である。最低限必要なスキルは指示された要件を理解する力(オーラルのコミュニケーションとドキュメントの理解力)と、その実装に必要な技術の保有である。一般的には下流の仕事と考えられており、真実ではあるが、一方でGoogleを始めとした一部のエクセレントカンパニーにおいては、コード自体の磨き込みによる差別化が、UX全盛の時代における競争優位の最大要素となっている点は忘れるべきではない。

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