過熱するデジタル人材の獲得競争乗り遅れるな(3/6 ページ)

» 2017年09月26日 05時30分 公開
[A.T. カーニー]
A.T. カーニー株式会社

ビジネスデザイナーの採用

 デジタル系ビジネスでは、優秀なビジネスデザイナーの確保が成功の鍵となる。ビジネスデザイナーが見極めたプロダクトの方向性はビジネスの成功に大きく影響し、ビジネスデザイナーの手腕次第で技術者が創造性を発揮できるか如何が決まる。

 しかしながら、要件を定義したとしても、ビジネスデザイナーの成功要因を問われると、回答は難しい。デジタルビジネスで成功した人物のスキルや仕事の進め方には共通点が少ないように見えるためだ。これは、音楽やゲーム、TV番組のプロデューサーにも共通している。各人は音楽やゲーム、TV番組の成功によって個として有名であるが、その人物像やスキル、仕事の進め方は千差万別である。

 また、採用マーケットの観点では、ビジネスデザイナーの需給ひっ迫状況自体に議論がある。エンジニアに比べて賃金が上昇していないことから需給がひっ迫していないという意見がある一方で、Webサービス企業の経営層からはビジネスデザイナーが採用できないという声がある。

 これらの状況から、ビジネスデザイナーに関しては職務定義書が定まっていないと考察される。定義が決まっていないために、優秀な人材の条件が明確でなく、また採用マーケット自体の定義も曖昧となる。このことは、企業がビジネスデザイナーの採用・育成において型を作れず、またデジタルビジネスの成功に再現性を保てない問題を引き起こしている。

 優秀なビジネスデザイナーを確保するにはどうすれば良いだろうか。ここでは2つの方法を考察する。1つは成功実績があるビジネスデザイナーにターゲットを絞った採用であり、もう1つは優秀なビジネスデザイナーが頭角を現すことが可能な社内環境の整備である。

 成功実績がある人材の採用は、職務定義書が明確でない職種に対する本質的な対応だ。しかし、ビジネスデザイナーとして成功した人材を採用する場合、現職での地位が高まり、また転職マーケットにおいても価値が高まるため、高額な給与の提示が必要となる場合が多い。

 この問題への対応には、デジタル系ビジネス以外の採用プロセス事例が参考になる。ある外資系化粧品メーカーでは成功実績を出しやすい人材を経済的に採用するため、若手の採用にゲーミフィケーションを活用している。応募者は、オンラインで架空の社員として新商品開発から市場発表までのプロセスに仮想的に取り組み、その手腕によって成果が変動する。企業は応募者の仮想世界における実績を基に、採用判断する。この方法によって、企業は優秀な可能性の高い人材を、世の中で実際に成功実績を出す前に囲い込むことができるのだ。ゲーミフィケーションを使ったオンラインツールは、デジタル系ビジネスとも親和性が高いだろう。このような採用プロセス導入の障壁は低下しているため、今後多様な業界で同様のプロセスの導入が想定される。

 次に、ビジネスデザイナーが頭角を現すことが可能な社内環境を整備する方法としては何が有効だろうか。例えば、ある日系ゲーム会社は、新しい事業や企画を立ち上げたい人材がいる場合、経営会議でGo or Not goを判断せずに、実際に立ち上げるチャンスを与える制度を採用している。この制度は、移り変わりの早いゲーム業界では経営層はその良し悪しを判断できないことを前提としており、チャンスを与えて、優秀なビジネスデザイナーが頭角を現せるような仕組みとなっている。

 この制度のポイントは、経営は開始時にGo or Not Goを判断しないが、結果を判断するプロセス・基準を予め設定している点である。

 同様の方法はテレビ局プロデューサーの育成で取り入れられている。ある民放主要局では若手の育成向けに深夜枠を提供し、そこで成功した若手を深夜以外の番組にシフトする仕組みを導入しており、他局がプロデューサー育成に苦しむ中で、高視聴率の企画を増やしている一因となっている。

 上記で2つの方法を紹介したが、これらを総じてみてみると、デジタルデザイナーの採用の要諦が見えてくる。デジタル系ビジネスでは従来のビジネスと勝ちパターンが異なるため、多くの企業では人材の見極められる経営層が少ない点を経営層が認識することが重要だ。このことから、従来の「人が人を見極める方法」ではなく、「実際にやらせた結果で人を見極める方法」にシフトしており、経営層にはその仕組みの整備が求められている。

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