日本は大丈夫なのか 米大使館を苦しめている「音響兵器」世界を読み解くニュース・サロン(3/4 ページ)

» 2017年10月05日 07時34分 公開
[山田敏弘ITmedia]

「音」を使った作戦の歴史は古い

「音」を使った作戦の歴史は古い

 最近では、米国の治安当局もこうした音波による「音響砲」と言われるものを実用化している。2009年にペンシルベニア州ピッツバーグでG20サミットが開催された際には、抗議デモを追い払うために、米軍と民間企業が開発した「LRAD」(Long Range Acoustic Devices=長距離音響装置)と呼ばれる音波砲が全米で初めて用いられた。YouTubeにアップされた当時の映像では、LRADの発する音により、デモ参加者が耳を塞ぎながら逃げる様子が見られる。

 この装置はシカゴやニューヨーク、メリーランド、カリフォルニアなどでも使われている。2014年にミズーリ州ファーガソンで黒人男性が殺害された事件をきっかけに勃発した暴動でも、この音響砲が現場で使われた。

 またLRADはすでに、イスラエルやポーランド、シンガポールやブラジルなど世界70カ国以上で導入されている。日本も捕鯨船に搭載して抗議デモ活動に対する攻撃として使用していた。

 現在、警察当局が導入している装置は音波レベルをおさえたモデルで、理想的な環境であれば2キロ先まで音が聞こえるという。一般的な市街地などでも650メートルは音が届くらしい。その装置で音波を大量出力した場合には、15メートル内にいる人は失聴し、300メートル圏内にいる人は頭痛など痛みを感じるとされる。

 また軍仕様の上位モデルとなれば、最大162デジベルの音を出し、最大で9キロまで明瞭に音を届けることができる。ちなみに飛行機のエンジン音は、近くで聞くと120db(デジベル)ほどある。この装置は人を失聴させてしまうなどの恐れがあり、米国内ではその使用に反対の声も上がっている。

 ご存じの方もいるかもしれないが、もともと軍事的に「音」を使った作戦の歴史は古い。第二次大戦の時代には、ナチスが大量に人を殺害する目的で、音響砲の攻撃を研究していたとの話もある。

 また「音」という広い意味で見れば、米軍は昔から使っていた。ベトナム戦争や、パナマ危機などで大音量の楽曲で敵を翻弄(ほんろう)する作戦が実施されているし、2003年のイラク戦争でも、米軍はイラク人捕虜に対して、米ヘビメタバンドのメタリカの「エンター・サンドマン」や、ビー・ジーズの「ステイン・アライブ」、子供向けテレビ番組「セサミストリート」のテーマ曲など大音量で絶え間なく流し続け、心理的に追い詰める作戦を行っていた。

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