トヨタとマツダとデンソーのEV計画とは何か?池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)

» 2017年10月10日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]
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 さて、その中で別格に重たい役割を背負わされたのがマツダである。これまで繰り返し述べてきた通り、多品種少量を最速で作らなければならない。それはマツダの第6世代商品群の成立と全く同じストーリーであり、トヨタが「トヨタ株の取得を認める」という最恵国待遇で提携したマツダの真骨頂でもある。

 マツダの第6世代の開発実例をベースに現在進行中のEV計画を見れば、まずは今後10年で全世界で必要な全モデルの策定から開発はスタートするはずである。これがリリース中に書かれた「一括企画」である。

 マツダのリリースによれば「軽自動車から乗用車、SUV、小型トラックまでの幅広い車種群をスコープとし」とあるので、軽自動車(Aセグメント)、Bセグメント、Cセグメント、Dセグメント、Eセグメントの5サイズとなり、常識的にはBセグからDセグまではセダン/ハッチバックとSUV。EセグはSUVのみという展開になるだろう。小型トラックのみが北米向けのピックアップを指すのか、日本やアジアでの商用車を指すのかはっきりしないが、仮にプロボックスの立ち位置だと仮定すれば、これはBセグプラットフォームで作られるはずだ。逆に北米向けピックアップならEセグSUVをベースに開発されるだろう。恐らくは2019年から21年までにこれら9車種を一気に展開する。

 開発はスーパーコンピュータを使ったシミュレーションを多用したモデルベースデベロップメント(MBD)と呼ばれる手法で行われ、基礎開発の実験結果を全車種に適合させるだけでなく、地域ごとに異なるニーズに対応するためのキャリブレーション(較正)までを一気に済ませてしまうというのがマツダの一括企画の手品の種だ。

 従来は1車種ごとに基礎開発を行い、仕向地ごとにセッティングを変える必要があり、それらが開発のコストと時間を膨大に消費していた。それをシミュレーションを使ってほぼ一発で済ませられるから、短期間/ローコストで優れた製品を大量開発できる。これこそがトヨタが喉から手が出るほどほしかったマツダの開発手法である。

 カネと人が足りないマツダが作り上げたこうした手法を世界で一番カネがあり、人がいるトヨタが手中に収めたら何が起きるだろうか? EV時代の到来という言葉には筆者は懐疑的だが、それでもEVの比率はゆっくりと増えていく。その世界的競争にトヨタ・アライアンスは圧勝するだろう。

BMWのiシリーズ BMWのiシリーズ

 EVで先行している会社と言っても、そもそも量産前提のEV専用シャシーを持っているのはテスラのモデルSとXで使われているシャシーと、日産/ルノーが使っているリーフのシャシーぐらいしかない。BMWのiシリーズは採算度外視のカーボンフレームで、万が一月に5000台売れるようなことになったら会社が倒産するだろう。台数的には売れないが注目度が高いという点に注目して、宣伝費のつもりで赤字を容認してきた。電動化で先進性をアピールする戦略は、それなりに成功したが、本気で採算を合わせて売るつもりの肝心要のプラグインハイブリッドモデル、330eがi3より売れないというていたらくで、BMWのEV化は先行きが危ぶまれる状態である。出血大サービスだけでは事業は回らない。

 EV専用のシャシーはエンジン搭載用のシャシーとはさまざまな特性が異なるはずだ。エンジンに比べ圧倒的に振動が少ないモーターは、音や振動で圧倒的に有利であり、従来の様な大げさな振動遮断マウント技術はいらない。しかもサイズも小さいので、搭載位置の自由度が高い。そうなれば人をどう座らせるかのパッケージも大きく影響を受けるだろう。自動車を長年開発してきたメーカーが、エンジンという縛りから解放されたときにどんな飛躍を見せるかはとても興味深い。EV専用シャシーには大きな可能性がある。

 トヨタ・アライアンスによるEV開発は、日本無双の時代のスタートになるかもしれない。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

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