トランプか金正恩か、それとも……。本当に「クレイジー」なのは誰だ世界を読み解くニュース・サロン(3/5 ページ)

» 2017年10月12日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

トランプのビジネス哲学は、手のうちを見せないこと

 このやり取りを見ると、トランプの北朝鮮に対する発言の裏も何となく見えてきそうではないか。つまり、彼はクレイジーぶることで本来の議論や交渉をかく乱させ、今後の交渉(外交)を有利にしようとしているふしがある。そこには計算があるということだろう。

 そうなると、これまでも北朝鮮に対してトランプが口先だけだったことも納得できる。さらには、冒頭の北朝鮮に向けた「有効な手立てはひとつ」という発言も「煽(あお)り」であると考えられる。そもそもトランプは以前から、軍事作戦なども事前に相手に知られるのは愚かなことであると述べており、2017年8月にバージニア州の米軍基地でスピーチした際も、米国の軍事活動を「事前に話すことはない」とし、「米国の軍事的計画を敵に絶対に前もって知られてはならない」と話している。あからさまに推測できるような、ひとつしかない「有効な手立て」をばらすことはしない。手の内を見せないことこそが、トランプのビジネス哲学だ。

 そう見ると、とりあえずツイートで煽りながら、米国に挑発行為を続ける北朝鮮にトランプ流の挑発行為を行っていることになる。北朝鮮も望んでいる外交交渉に向けたトランプ流外交戦略といったところか。少なくとも、トランプは決して言いたい放題の「クレイジー」な発言をしているのではなく、きちんと交渉の駆け引きを始めていると考えられる。

 ちなみに、トランプは過去に、対北朝鮮に限らず、トンデモ暴言を吐き、間違った情報をさも本当のように語ってきた。それでも、少なくともそれらは「クレイジー」というレベルではないだろう。ただデリカシーがない「オッチャン」であり、ポリティカルコレクトネスを気にしないというだけだ。しかもそれをウリにもしており、トランプ支持者はそんな彼を好意的に見ている。事実、日本でも、次々とメディアで報じられるコメントを見て、「トランプさんってちょっと人情味がある気がしてきた」なんて思うようになっている人も少なくないのではないだろうか。

 そして今、世界で最も激しくトランプといがみ合っているのは、間違いなく、金正恩委員長の率いる北朝鮮だ。仮にトランプの発言が計算の上だとすると、じゃあ「クレイジー」なのは金正恩だけということなのか。一般的に独裁者の金正恩は「マッドマン(狂人)」であるとの見方が広まっているが(ちなみに暴露されたフィリピンの機密文書ではロドリゴ・ドゥテルテ大統領が金正恩を「マッドマン」と呼んでいた)、実は最近、「果たしてそれは事実なのか」という懐疑的な見方も報じられている。

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