女性記者の過労死問題で、なぜNHKはウソをついたのかスピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2017年10月17日 08時08分 公開
[窪田順生ITmedia]

マスコミ記者の基本的なビジネスモデル

 このような宅配クライシスとまったく同じことが、マスコミにも起きている。

 実は日本のマスコミが今のように偉そうにふんぞりかえって、高給取りの仕事になった大きな要因には、「記者クラブ」という制度があることが大きい。ここは選ばれたメディアしか加盟できないので、政府や公的機関から得られる「情報」を一部業者だけで独占することでその価値を確かめつつ、新規参入を防ぐという特権階級的なビジネスモデルを築くことができた。これは権力側にとってもありがたい話で、窓口をひとつに絞ることで、情報統制がしやすくなる。

 この制度のおかげで、マスコミは閉ざされた「ムラ」のなかで安心して企業努力に打ち込むことができた。その代表が、佐戸さんを死においやった「夜討ち朝駆け」だ。官僚の自宅に足繁く通って、自社だけの「特ダネ」をいただくのだ。

 つまり、記者クラブというベースの情報に、夜討ち朝駆けでインセンティブを付けて、情報を世に送り出すというのが、マスコミ記者の基本的なビジネスモデルだった。

 だが、これも先ほどと同じく時代は変わる。

 ネットでこれだけ情報があふれて、SNSで誰もが情報を発信できる。総理大臣も大統領もSNSでつぶやいて、それがニュースになる。記者クラブで触れ回っていることなどはネットですぐに入手できる。夜討ち朝駆けなどをして得た特ダネもすぐに消費される。

 じゃあ文春砲や新潮砲のような調査報道を……と張り切っても、新人時代からやっているのは、記者クラブと夜討ち朝駆けの往復なので、彼らのようなスレスレのインサイダーからネタを引っ張るノウハウもない。

 要するに、いまのマスコミ記者たちは記者クラブという「ムラ」に長く浸かりすぎた弊害で、「ムラの外」で起きている大きな時代の変化についていけず、「昔よりもやらなくてはいけないことは多いのに、昔ほど成果がでない」というブラックな労働環境に追いやられてしまっているのだ。

 じゃあどうすればいいのか。簡単だ。「考え方」を変えるのだ。

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