やっぱり政治家の「プレゼン力」はスゴい常見陽平のサラリーマン研究所(3/3 ページ)

» 2017年10月20日 06時00分 公開
[常見陽平ITmedia]
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政治家から学ぶべき点が多々ある

 ここで、ある人のプレゼンを思い出した人もいるだろう。そう、今は亡きスティーブ・ジョブズだ。彼のプレゼンは、封筒やポケットから商品を出し、薄さや軽さ、小ささをアピールするなど、奇をてらったものだと思われがちだ。紹介する商品もクールなので、その驚きもある。ただ、実は「周囲を注目させる」というプレゼンの基本に忠実なのである。

 いちいち身振り手振りが印象的で指の1本1本まで注目させてしまう。数字の使い方、各テーマのまとめ方も上手だ。なんせストーリー作りがうまい。見るものを飽きさせずに、夢中にさせる。さらには「仮想敵」をつくることがうまい。時に名指しで、時にはなんとなく分かるように、競合を批判する。そして、ユーザーが抱えていた不満を解消するクールな商品を発表する。それはもう拍手喝采だ。

 何かに似ていると思わないか。そう、まさに前述した政治家の選挙演説そのものなのだ。彼らは通行人に、しかも自分に興味がない人も含めて、自分や党に投票するメリットを簡潔に示さなくてはならない。だから、選挙からプレゼンを学ぶ意味があるのだ。

 さらに立候補者は常に真剣勝負だ。プレゼンだけでなく、その全人格が問われるのである。特に東京以外のビジネスで顕著なのだが、いかに商品・サービスや提案内容がよくても人間的な魅力がなくては信頼を勝ち得ることはできない。常に見られていることを意識している政治家からは学ぶべき点が多々ある。

 私は人事担当者の前で講演することが多いのだが、いつもそこで、選挙期間は政治家の演説を見に行けと言っている。採用活動を行う上では、若者(就活生)と常に真剣勝負をしなくてはならないからだ。いくら企業が魅力的でも、最後はその採用担当者を見て判断するケースが多いのである。

 最後に、選挙の話に戻そう。やたらとスキャンダルも多い上、突然の解散、野党の再編に戸惑っている人、白けている人も多いだろう。中には、政策が『ドラえもん』のひみつ道具化している政党すらある。本当にできるのか、と。そう、単にプレゼン、いや演説がうまいだけでなく、本当に実行できそうなのか、任せられそうなのかも含めて考えたい

 個人的には、働き方改革がまるでなかったかのように軽く扱われているのが気になる。まだまだ取り組みはこれからのはずだ。選挙後には時間と賃金を切り離す高度プロフェッショナル制度の検討や、裁量労働制の拡大なども法案として審議される。政策は見た目上は横並び感があるが、さあ、労働者としてどの政党を支持するべきか。じっくり考えよう。

常見陽平のプロフィール:

 1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。

リクルート、玩具メーカー、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』『エヴァンゲリオン化する社会』(ともに日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)『普通に働け』(イースト・プレス)など。


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