―― 『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』は単行本の第1巻が出たばかりです。今後、島安次郎、雨宮哲人の関係、鉄道の時代はどうなりますか。
池田: 大きな流れとして「我田引鉄(※)」があります。原敬の号令で、「狭軌でいい、線路をもっと作れ」という時代になります。『カレチ』の荻野は現場から難題が湧いてきます。しかし島安次郎は高官ですから、上から大きなものがドーンとやってくる。「うわぁ、どうすんだこれ」という展開です(笑)。島安次郎は広軌がいいと考えているから、政策とのギャップを感じる。
―― 鉄道史の中でも議論が分かれる部分ですね。
池田: そこからちょっと史実とは離れるんですけど、島安次郎の息子、島秀雄はちょっと違う考え方をしている。天才的な少年として描いたので、父と意見が対立するような場面もある。どちらかというと、人情味のある安次郎、クールな秀雄。親子のぶつかり合いを描いていきます。
―― 島秀雄といえば新幹線の父ですね。新幹線開業の頃に生まれた鉄道ファンとしては身近な時代になったと感じます。
池田: 1巻でも、子どもの頃の秀雄がチラリと出てきます。連載の方ではちょっと成長して、天才的な少年として登場します。父親の背中を見て育ったはずなんですけど、一筋縄ではいかない(笑)。
―― 鉄道マンの物語、さらに親子の物語になっていく。『コミック乱ツインズ』の読者層は50〜60代が多いそうですね。僕の父の60歳の頃を考えると、息子が言うことを聞かない時期ですよ(笑)。読者には身につまされる展開なんでしょうか。
池田: そこを象徴するエピソードが「慟哭の碓氷峠」ですね。
―― 新しい技術を試したい子と、実績のある技術を信じる父。母親のエピソードもあって、情感のこもった涙を誘う話でした。
池田: 初期の『カレチ』的なね。
―― 『カレチ』のファンはここで、池田マンガの醍醐味を感じられる。技術は違うし、時代も違うし、でも、現在に通じる話かもしれません。
―― もう1つ、興味深いエピソードとして、北海道で暮らす人々との交流がありますね。鉄道とは何か、人との関わり方というテーマを語っていらっしゃいます。これも今後の重要なテーマになっていくような。
池田: 一応アイヌの歴史は調べたんですよ。アイヌとは一言も言ってないんですけど、『ゴールデンカムイ』(※)があるから大丈夫かなと。
―― 鉄道によって幸せになる人もいれば、不幸になる人もいる。どっしりとしたテーマを感じました。鉄道の負の面を、あえて鉄道好きの先生がお描きになったという点が興味深かった。
池田: 鉄道そのものは悪いわけではない。人が幸せになるために使わなきゃいけないものです。
―― 島安次郎、雨宮哲人の軸があって、雨宮哲人が島に理解を示すと、こんどは島秀雄が立ち上がってくる……。そして秀雄と雨宮哲人の関係はどうなっていくか。それは対立か、それとも……。登場人物の関係を通じて、鉄道とは何か、という本質に迫る。興味深い展開になりますね。
池田邦彦『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち 第1巻』と藤本正二『終電ちゃん 第4巻』の発売を記念して、11月11日に鉄道書好きの名店「書泉グランデ」(東京・神保町)で、「池田邦彦先生&藤本正二先生トークショー&サイン会」が開催されます。司会は本連載の筆者、杉山淳一です。インタビューより濃い話が聞けるかも? ぜひお越しください。イベントの詳細はこちら
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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