大企業のノルマが、「不正の温床」になる本質的な理由スピン経済の歩き方(4/4 ページ)

» 2017年11月07日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]
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日本社会で生きづらい最大の理由

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 日本に「ノルマ」という言葉が広まったのは戦後、シベリアでソ連兵から厳しいノルマを与えられ、強制労働をさせられていた方たちが帰国してからだという説があるが、実はこの概念自体は戦前から持ち込まれている。

 その象徴が、1939年に制定された「国家総動員法」である。

 この法律は日本人独自の斬新な発想などではなく、実はドイツ経由で入ってきたソ連の計画経済をまんまパクったものだ。

 生産性をあげるために企業に国民を縛り付けておく終身雇用や、国家のために国民が与えられた労働量をこなす「ノルマ」という、平成の世にまで脈々と受け継がれてきた「日本文化」はこの時期につくられたものなのだ。

 商工中金は、金融危機や震災が終わっても「危機対応業務」を継続した。政府系金融機関なのだから「危機」が過ぎれば、民業圧迫にならないように「危機対応業務」という計画の軌道修正、つまり「縮小」や「撤退」を検討しなくてはいけないはずが、そのまま破たんした計画を突き進んだ。

 これは「大東亜共栄圏」という破たんした計画を突き進んだ日本軍から続く、「ノルマ」と「計画経済」の呪縛にとらわれた日本型組織の「伝統的な失敗パターン」といえる。

 いまほとんどの日本人はこの国を「自由主義経済」だと思い込んでいる。市場原理や競争原理が働き、やる気と能力があれば好きなことができる社会だと信じられている。一方で、ネットには愛国心溢れる言説が多く、共産主義的なイデオロギーは「反日」のそしりを受けている。だが、その若者たちも一方で、「ウチの会社はノルマが厳しい」と旧ソ連の労働者とまったく同じようなスタイルで働いている。

 こういう二重人格のような社会の「歪み」こそが、日本社会が生きづらい最大の理由の気がしてならない。

 なぜ日本はこんなに豊かなのに自殺者が後を絶たないのか。なぜ人もうらやむような大企業でパワハラや過重労働がまん延しているのか。

 シベリアの強制労働では多くの尊い命が奪われた。その一方で、過酷なノルマのなかでも、どうにか生き延びた人もいらっしゃる。その点がいまの日本企業と丸かぶりだ。ノルマに追いつめられ、「もうだめだ」と脱落したり、不正に走る人もいれば、過酷な環境にフィットして生存競争に勝ち抜き、「ノルマなんかあって当然だ」とうそぶく人もいる。

 続発する日本企業の内部崩壊は、戦前から続くソ連型経済の崩壊をあらわしているのではないのか。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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