「10日前に電話で断った」 SB孫社長、Sprint統合交渉の裏側語るIoT時代の戦略に必要と判断

» 2017年11月07日 09時46分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

 「米子会社Sprintと米T-Mobile USの統合交渉は破談に終わった。負け惜しみに聞こえるかもしれないが、私は晴れやかな気持ちだ」――ソフトバンクグループが11月6日開いた2017年4〜9月期の決算会見で、同社の孫正義社長はこう話した。

 両社は顧客基盤を統合し、米携帯市場首位のVerizon Communicationsや2位のAT&Tとの競争力を高めることを目的に、数カ月間にわたって統合交渉を進めていたが、11月4日に交渉を打ち切ったことを発表していた。(関連記事

photo Sprintの重要性について話す孫正義社長

 孫社長は「3年前にも交渉を試みたが、当時のオバマ政権の方針で(米規制当局による)許可が得られなかった。現在のトランプ政権は統合を前向きに受け止めてくれると判断して再交渉に臨んだ」と背景を説明する。

 しかし、T-Mobile USと交渉を進める中で、両社の経営権に対する考え方に食い違いが生じたという。

主要メンバーと議論し、電話で断った

 「合併後の会社に対して、ソフトバンクグループが経営権を持つことは難しそうだと感じた。両社がほぼ同等の経営権を持つケースなら問題ないと考えていたが、T-Mobile USは単独で経営権を持てない場合は条件をのめないと主張した」(孫社長、以下同)

 「そこでSprintが当社にとって重要なのか、単なる投資アセットなのかを判断するため、10日前の取締役会で話し合った。マルセロ・クラウレ(Sprint CEO)、ジャック・マー(中国阿里巴巴会長)、柳井正(ファーストリテイリング会長)などの主要メンバーと議論した結果、Sprintは戦略的に重要と判断した」

 「会議終了後すぐ、T-Mobile USの親会社、独Deutsche Telekomのティム・ヘットゲスCEOに電話し、合併の話はなしにしようと私からはっきり伝えた。ただ、電話だけではなく直接話をすべきと考え、先週土曜日に当事会社のトップ8人を東京に集めて話し合いの場を設け、交渉を打ち切るという結論に至った。価格の安い高いという条件交渉ではなかった」

photo 交渉中止に関するT-Mobile USの発表(=プレスリリースより)

「SprintはIoT時代に必要」と判断

 ソフトバンクグループの首脳陣がSprintを戦略的に重要と判断した理由は、今後IoT(モノのインターネット)の技術がさらに発達した際、米国市場でSprintの通信サービスをIoT向けに提供することを視野に入れているためだ。

 「当社は、今後20年間で1兆個のIoT機器にチップを供給する予定の半導体企業・英ARMを傘下に持つ。中でも、米国市場は最大のチップの供給先と考えている。人間同士をつなぐ通信サービスではVerizon CommunicationsやAT&Tには勝てないかもしれないが、モノとモノ、モノと人がつながるIoTの時代においては、(ARMとSprintを所有する)われわれは有利な立場にいるのではないか」

photo ARMの2017年度上半期のチップ出荷数

 「IoTが本格的に始まる5年後、10年後を見据えると、最もリッチな米国市場を失う必要はない。今回の意思決定は心の底から正しいと考えている。『Sprintを売らなくてよかった』と思える時が来るはずだ」

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