ボルボXC60 社運を懸けた新世代アーキテクチャの完成池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)

» 2017年11月13日 06時50分 公開
[池田直渡ITmedia]

新世代シャシーの熟成

 エンジンはDrive-Eと呼ばれるコンポーネンツ型システムを採用し、全モデル共用の4気筒。ブロックを共有するガソリンとディーゼルの2種類を基本に、ターボ、ツインターボ、スーパーチャージャー、ハイブリッドと各種の追加デバイスを組み合わせることで車両重量とグレード別動力性能への対応を図っている。なお、このほかにコンパクト用の3気筒モデルを開発中である。

 さて、すでにドライブトレーンについてはデビュー時からそこそこの完成度を見せていた。ディーゼルターボモデルの低速域に残されたラグでドライバビリティに少しネガがあったことを除けば、ブランニューのパワートレインシリーズとしては完成度が高かった。

 しかし、シャシーはもう少し生煮えだった感がある。XC90でデビューしたSPAシャシーは高剛性と後突安全性に高い資質を見せつけたが、足回り全体の高周波域でのダンピング不足からくるピリピリした微振動と、直進安定性の不足、パワステのセルフアライニングトルクの不自然さといった問題点が残っていた。

 直進安定性は、トヨタ自動車の先代までのプリウスのような、舵が効かずに漂流するタイプではなかったが、逆に路面の不整を拾ってチョロチョロと進路を変えたがる神経質な感じで、特に商品的に穏やかな高速巡航性能が重要なXC90にとっては影響が大きかった。パワステのセルフアライニングトルクもモーターによる反力が盛り過ぎで、操作時に反力の立ち上がりが唐突かつ強過ぎた。

 という具合に、熟成不足だったにも関わらず、XC90は商業的に成功を収めた。ボルボ自身も社運が懸かったベストセラーのXC60ではSPAシャシーのセッティングを一気に詰めて、今度こそデビュー時から商業的にだけでなく、商品的にも成功させたいと考えているはずである。

 そんなわけで筆者にとっても期待と不安が共に大きいXC60はどうだったか?

 結論から言えば、その仕上がりは予想を超えて良かった。ボルボのスタッフは「XC90もすでに年次改良を受けて良くなっています」と説明しているので、それもいずれ試してみたいと思うが、試乗してみると、XC60はデビュー時のXC90が抱えていた諸問題をしっかり解決してきた。ピリピリした微振動も、直進安定性に見受けられた神経質さも消えていた。パワステもずいぶんと自然になった。

スカンジナビアデザインをうたう内装には流木をイメージしたウッドが採用される スカンジナビアデザインをうたう内装には流木をイメージしたウッドが採用される

 印象として、とても透明感のある澄んだ乗り心地でスッキリしている。かつてのボルボに感じた、暖かみや厚みをあまり感じなくなった代わりに、良い意味で線は細く精密度が上がり、硬質になり、精度感が上がった。運転していてキリキリとした感じでなく、ミネラルウォーターのような自然な感じに仕上がっている。これが新世代シャシーの目指したところだったのかと腹落ちした。ボルボの新たなスタンダードである。

 この乗り心地はパワートレインやハンドリングの仕上がりも含めた総合的な話で、各要素の向かう方向がうまく統率されている。エンジニアが相当に頑張ったことがヒシヒシと伝わる。

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