「成功しない」を覆す ネット世界を走る開拓者の信念冷静な視点を持つ(2/4 ページ)

» 2017年11月15日 07時00分 公開
[加納由希絵ITmedia]

「ネットで知り合いとつながる」提案

 森岡さんが任されたのは、日本法人を立ち上げ、日本のユーザー数を伸ばすこと。代表を務めるもう1人の日本人社員と、本社から派遣されたエンジニア3人の計5人。原宿に構えた1LDKのオフィスから始まった。

 まず取り組んだのは、日本人が使いやすいサービスの構築だ。日本で使われていたフィーチャーフォン(ガラケー)でも画面がきれいに表示されるように、「ガラケー版」のFacebookサービスを開発。また、友達リクエストを受けた際の「拒否(ignore)」を「後で」とするなど、日本人にとって違和感のある言葉は、英語を直訳するのではなく、自然な日本語に改良した。

 しかし、Facebookの仕組みや文化を理解してもらわないと利用は広がらない。IT企業の関係者たちからは「日本ではダメ」「匿名で利用できれば、はやるよ」などと言われ続けた。しかし、森岡さんは「本当にそうなのか?」と疑問を抱いていた。

 その理由は、日本のインターネット文化が「リアルとネットは別物」という独特の価値観を前提に発展してきたからだ。しかし、今では当たり前になったが、ネットの機能をうまく使えば、友人や知り合いとより深くつながることもできる。その新しい概念が伝わればうまくいく、という感触があった。

 「日本独自のネット文化を発展させてきたのは、たった2000万人ほど。80%の人は参加していなかったのです。20%を思い切って無視してしまう。怖がって参加していない80%の人に対して、利便性や安全性を伝えれば分かってもらえるのではないか」

 取り組んだのは、ネットとリアルのつながりを強調することだ。Facebookは知り合いとつながるためのツール。そのメッセージを実践的に伝えるために目を付けたのが、大学生の就職活動だった。

 就活の1つに、同じ大学の卒業生を訪問する「OB訪問」がある。定番の活動だが、近年は個人情報保護の観点から、大学でOB名簿が手に入らないことが多い。人づてで紹介してもらうなど、OBを見つけるのも一苦労だ。

 そこで、Facebookで情報交換をすることでOBを見つける仕組みを考案。リクルートにアイデアを持ち込んで、ソーシャルメディアを使った就活「ソー活」を打ち出した。Facebookで大学と勤務先を絞って検索すれば、志望企業に勤める社会人にアプローチすることができる。また、イベントなどの情報交換をしたり、企業が発信する情報を集めたりできることもPRした。ネットに慣れている学生たちが使いこなすのに時間はかからなかった。ソー活を足掛かりにして、グループ内で情報やデータの共有ができる「グループ機能」などの紹介にも注力。大学のゼミを回ったこともあったという。

 「日本には『インターネットで知り合いとつながる』という概念がありませんでした。しかし、その仕組みが理解されれば広がります。災害時に安否確認をするための災害メッセージボードは日本発の機能。今では、それをベースとした安否確認機能が世界で使われています」

 日本法人を立ち上げた当初に約80万人だった国内ユーザー数は、3年で約2500万人に拡大。成長に大きく貢献した。

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