「成功しない」を覆す ネット世界を走る開拓者の信念冷静な視点を持つ(3/4 ページ)

» 2017年11月15日 07時00分 公開
[加納由希絵ITmedia]

スマホの可能性に注目

 Facebookで仕事をしていた期間に、ネットの世界では大きな変化があった。スマートフォンの普及だ。Facebookの広がりにも、スマホの存在が大きな追い風になった。森岡さんはその変化に着目。「スマホを使って大きなことをしたい」と考え、KDDIに移った。

 入社初日にミッションとして提示されたのは、「ユーザーとの接点を構築する事業をやってほしい」。つまり、ユーザーの性別や年齢、行動履歴や傾向などのデータを集めて分析し、活用するビジネスだ。森岡さんは、「大きな組織の通信会社ではなく、スピード感を持って進められるインターネット専業の会社でないとやれない」と直訴。すでに広告配信システムやWebメディアなどを手掛けていた企業を買収、合併して新会社の設立に至った。

 Supershipの広告事業では、さまざまなデータ分析を基にして、デジタル広告の効果が最大になるような配信方法を提案している。PCやスマホに広告を出しても、ユーザーの関心を引かなければ意味がない。広告の内容に合っていないサイトや不適切なサイトに広告が表示されてしまうと、企業が批判を受けることもある。

 そのような問題を防ぎ、広告の効果を最大化するために鍵となるのがデータだ。Supershipの強みは、独自開発した高精度なデータ基盤。ユーザーの属性や興味関心などのあらゆるデータを一元化するプラットフォームを構築している。

 そのデータ基盤を活用し、広告主向け、メディア向けサービスを展開。広告主向けには、最適な広告枠の選定や配信を自動で行い、広告の効果を最大化するプラットフォーム(DSP)を提供。広告を掲載するメディアに対しては、収益性の高い広告を自動で選定して配信することで、収益最大化を支援するツール(SSP)を提供している。

 データ基盤を早い段階で構築し、広告主側、メディア側の双方に対する幅広いサービスを提供できているのは、M&Aによって誕生した会社の強み。広告事業以外にもその効果はあり、生活情報サイト「nanapi」の運営など、消費者向け事業も手掛けている。

photo Supershipの広告事業。データ基盤を活用して広告主、メディア向けサービスを提供している
photo ユーザー向けサービス、新規事業なども展開

 一方、インターネットを介してデータを集める、という手法に対して、抵抗を感じる人がまだ少なくない。「ユーザーにとって違和感のないデータの使い方をしていく」と森岡さんは強調する。

 例えば、特定の商品を購入したユーザーに表示するターゲティング広告は、ユーザーにとって不要になっても表示されることも多く、「追い掛け回される」感覚がある。データ分析の精度をより高めることができれば、「欲しい情報が適切なタイミングで得られる」と感じさせることも可能だという。

 15年に設立したばかりだが、17年3月期の業績(単体)は、売上高が前期比60%増の235億円、営業利益は約5倍の9億円と急成長を遂げている。インターネット広告の市場規模は16年に1兆円を超え、伸び悩む他の媒体と比べて拡大傾向が続いている。その市場で、順調なスタートダッシュを切った。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.