「パラダイス文書」がまったく盛り上がらない、残念な理由世界を読み解くニュース・サロン(4/5 ページ)

» 2017年11月16日 07時34分 公開
[山田敏弘ITmedia]

パラダイス文書の根本的にな疑問

 そしてもう一点、パラダイス文書(パナマ文書もそうだが)について、根本的にな疑問も出ている。

 タックスヘイブンの存在そのものについての議論である。というのも、今のところ、パラダイス文書で暴露されている人たちや企業などは、暴露文書を見ても、そこに違法行為はほとんどない。つまり、はっきりとした問題点が見えにくいのである。

 ICIJの公式サイトは、パラダイス文書の現時点での「成果」を記載している。それによれば、アルゼンチンではパラダイス文書から波及したカネの流れで検察が大学関係者に逮捕状を出したという。ただそれ以外に大した結果は出ていない。チリやコロンビア、バミューダ、オランダ、シンガポール、カナダで、当局が文書を「精査する」とコメントしたと書いているが、ただ調べてみるとコメントしているだけに過ぎない。

 もちろん、日本の元総務副大臣の内藤正光氏のように、06年にタックスヘイブンであるケイマン諸島で10万ユーロを投資していたのに、09年に副大臣としての資産公開で記載していない、といったケースもある。こうした問題は確かに指摘されるべきだが、「忘れていた」という言い訳で終わってしまうような話でもある。

 言うまでもなく、租税回避は国家にとっては望ましくないものである。経済協力開発機構(OECD)の15年の調査によれば、租税回避によって国の歳入が世界全体の合計で年間2400億ドルも失われているという。また、税収が減ることで国の公共サービスがなくなったり、税金を真面目に払っている中間層や他の企業などにとってアンフェアになる、というのはその通りだ。

 一方で、タックスヘイブンは国境を超えて集合的に投資を行う際に、二重に課税されるのを防ぐことを保証するものでもあるし、企業は合併や買収など国境間のビジネスもスムーズにできるようになる。一概にダメなものであると言い切れないということだ。

ICIJはパラダイス文書の「成果」を公表しているが……(写真と本文は関係ありません)

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