――醸造面での改革はありますか?
04年に試行錯誤しながら商品化した「甲州きいろ香」が1つのきっかけになって、取り組んだことがあります。
甲州のブドウは酸化しないように醸造するのがポイントで、当時は炭酸ガスを吹きかけたり、いろいろなことをやりました。そうこうしているうちに、07年ごろにフランスでプレス機の中を窒素で充満させて、それでブドウを絞るというタイプの新しい機械が発売されたのですぐに購入しました。日本で導入したのはわれわれが最初でした。
その機械を使うことで甲州きいろ香を効率的に造れるようになりました。加えて、ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネなどの白ワイン品種も今ではすべてその機械で絞っています。白ワインは果汁を酸化させないのがすごく大事だなと改めて思いました。昔、私が醸造をやっていたときは、プレス機で絞ったブドウの果汁は茶色でした。発酵していくとだんだん黄色味のあるワイン色になっていくので、こういうものなんだなと思っていました。ところが、窒素を充填(じゅうてん)して絞るプレス機を使うと、出てくる果汁は緑色なのです。これを見て、今までは酸化していたのだなと実感しました。
リンゴの皮をむいてしばらく経つと茶色くなりますよね。あれと同じ原理です。絞った果汁が茶色になるのはワイン醸造では当たり前だと当時は思っていましたが、実はそれは違ったわけです。
白ワインはアロマが大事だと考えているため、シャルドネ、リースリング、甲州、ソーヴィニヨン・ブランもプレス機で絞るようにしたら、劇的な変化が表れました。それまでシャトー・メルシャンの白ワインは熟成が早かったのですが、プレス機を使うようになってからゆっくりと熟成し、ブドウが持つアロマがきちんと瓶の中まで回るようになったのです。
この新しいプレス機は、甲州よりもシャルドネの方がメリットを受けていると感じています。15年の「日本のあわ 長野シャルドネ」が海外のコンクールで2つ金賞を獲りました。恐らくシャルドネを酸化させず、ブドウのアロマを残すような仕込みをしたことが評価されたのだと思っています。これは大きな革新でした。
シャトー・メルシャンでは、さらに改良を加えていて、絞った果汁をタンクに送るときにただ送るだけでなく、ホースやパイプの中で酸化させないように、タンクまで窒素を送ってから果汁を流すようにしました。このように白ワインは徹底して品質向上に取り組んでいます。
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