巨大ホームセンターから見る地方住宅事情の今後小売・流通アナリストの視点(3/3 ページ)

» 2017年11月22日 06時00分 公開
[中井彰人ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

空家の利活用

 こうした事情を考えると、広域化、希薄化している地方都市の住宅地は、ゆっくりとコンパクトシティの方向に進んでいるのかもしれない。ただ、その間の悩みは空き家問題への対応ということになるだろう。

 世代交代が進んでいく中で、中心部、郊外を問わず、単身世帯の跡地たる空き家が大量発生する、というのはよく聞く話だ。空き家の処理は周辺住民や相続人にとって重たい問題だ。放置すれば老朽化による危険性や治安の低下につながりかねないが、解体や処分をするにも費用がかかる。特に、故郷から離れて居住している相続人などの場合、要する手間と時間もバカにならない。関係者にとっては頭の痛い問題である。

 だが、都市再構築の観点からすれば、空き家処理の政策的誘導によって、市街地の再構築を行う好機と捉えることもできる。コンパクトシティの範囲内の空き家に対しては再使用、再構築する、外側の空き家は転用、解体の方向へと誘導していけば、少しずつではあるが希薄化した街が効率的な構造に戻せる可能性もある。これからの地方の住宅政策は、こうした空き家のマッチングを、政策に沿って街を再構築していくための前向きなツールとして活用すべきだと思う。

 先日、かつて赴任していたことがある和歌山市を訪れる機会があり、街中、郊外と回ってみた。この町は人口約36万人の県都で、決して小さな町ではないのだが、典型的な希薄化都市となっており、町の中心がどこかが分からない。JR和歌山駅、南海電鉄和歌山市駅、商店街地区といった昔の中心がすべて1〜2キロメートル離れて存在しており、各々がかなり寂しい感じになっている。

 地元資本の百貨店は10年以上前に倒産し、商店街地区の大手百貨店、大手総合スーパーも撤退した。当然ながら、路面電車はとうの昔に廃止されている。和歌山大学、県立医科大学も郊外移転したため、若い人の姿がかなり減ったという。最近では巨大なイオンモールが郊外の和歌山大学近隣にでき、幹線道路も整備されたため、人の流れはそちらに向かっているらしい、と地元の人に聞いた。かつて暮らしていたとき以上に町の活気が失われていると感じ、寂しい思いがした。

 ただ、ちょっと期待したいと思ったのは、旧市街に空き地ができると、中心に近い部分はマンションに、周辺住宅地区には分譲住宅が新たにできてきて、そこに郊外から人が戻りつつある様子がうかがえたことだ。昔住んでいた社宅も今は売却されてしまったが、分譲されて新たな住宅に変わり、周りを子どもたちが走っていた。ほんの少しずつだが、中心部に人が戻ってきているように思え、少しだけ安堵した。

 町に人の姿は減ったが、道路には車が常にたくさん走っている。かつての40万人都市から人口が減ったとはいえ、まだ36万人もいるのだから、コンパクト化したり、機能が集まったりすれば、相当なにぎわいは作れるはずだ。まだまだ出せる知恵はたくさんある。

著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.