黒田日銀総裁の判断も予測! 「表情分析」があらゆる現場で普及するとき“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)

» 2017年11月22日 06時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]
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すぐにでも応用できるが……

 今回の表情分析は、技術的な視点で見るとそれほど難易度の高いものではない。分析に用いたAIは、マイクロソフトが一般に提供しているサービス「Microsoft Cognitive Services」の感情認識エンジンである。これは黒田氏の表情に特化して学習したものではなく、汎用的なものだ。

 AIの技術に詳しい人は、今回の取り組みについて「それほど高度な分析ではない」との評価を下すかもしれないが、筆者はそうは思わない。確かに使われている技術は汎用的なものであり、この分析システムを構築するのに高い技術は必要とされない。だが重要なのはむしろこの部分である。

 従来であれば、高い技術と多額のコストをかけなければ実現不可能だった分析手法が、クラウドのサービスを使うことでいとも簡単に実現できてしまう。今回は日銀総裁の表情分析だったが、同じようなやり方で、企業トップの決算発表や政治家の会見、さらには営業現場や会議など、日常的な場面においてもすぐに応用が可能だ。

photo 表情分析があらゆる場面で応用される?

 日銀総裁や政治家は公人であり、企業トップも半ば公人といってよい存在なので、表情を分析しても大きな問題は起きないだろう。だが、商談や面接の場など読者にも身近な現場において、相手の表情を分析する行為がどこまで許容されるのかは難しい問題である。技術的にはすぐにでも応用可能であるだけに、社会的なコンセンサスの確立が必要かもしれない。

 「ウソも方便」という言葉があるように、ホンネを隠したコミュニケーションは一種の潤滑油の役割を果たしてきた。しかしAI時代においては、微妙な表情までが分析対象になる。AIによる表情分析が当たり前となった社会は、クリアで透明性が高く居心地がよいものなのだろうか、それともギスギスしたものなのだろうか。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

 仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。

 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。

 著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。


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