路線と思惑の交錯―― 阪急神戸本線と神戸市営地下鉄の直通計画杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)

» 2017年11月24日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

都市鉄道等利便増進法で阪急の建設負担なし?

 阪急神戸本線と神戸市営地下鉄西神・山手線の直通運転について、解決すべき大きな課題は2つある。1つは1000億円以上と見積もられた巨額な工費だ。この工費の最大の使途は阪急神戸本線の高架路線を地下に移す費用だ。04年の時点では、阪急が自社に利する路線改良を行うわけで、費用負担は阪急主体がスジだ。

 ただし阪急は国土交通省が05年に新設した「都市鉄道等利便増進法」に基づく支援制度を受けるつもりだった。都市鉄道等利便増進法では、新規整備区間を上下分離方式で整備し、線路側会社の建設費用は国が3分の1、自治体が3分の1、残りを借入金などでまかなう。この借入金については、鉄道営業会社から受け取る線路使用料で返済していく。

 この枠組みでは、阪急電鉄は開業後の施設使用料を負担するだけだ。もっとも、言い出しっぺの会社としては、そんなに都合の良い案では神戸市も国も納得しないだろうから、線路側会社への拠出は必要になると思われる。

 神戸市にとっては、線路側会社へ3分の1の出資の必要があり、また、地下鉄事業者でもあるから、運行会社として線路使用料を支払う立場でもある。神戸市の負担割合が大きすぎないかという懸念はある。もう1つ、車両に関連する費用がある。

 阪急電鉄の列車は8両編成が基本。西神・山手線は6両編成で運行している。相互直通運転を実施し、梅田まで直通させたいなら、西神・山手線の全ての編成を8両編成にする必要がある。しかも、線路の規格は同じでも、車両の幅が異なる。阪急側の車体幅は2750ミリ、西神・山手線の車体幅は2790ミリ。西神・山手線の方が4センチ大きい。西神・山手線の電車は、そのまま阪急に直通できない。

 阪急電鉄の全てのプラットホームを削り、地上の設備の配置を検証していくか、西神・山手線に幅の狭い新型車を導入して入れ替えるか、という問題が生まれる。西神・山手線の古い車両は約40年が経過し、そろそろ入れ替え時だ。最後に整備した車両も25年が経過している。まだまだ使えそうだけど、総入れ替えが必要だ。西神・山手線の車両新造で解決した方がいい。

 こうした負担と直通運転によってもたらされる利益のバランスが取れているか、神戸市が慎重に検討したいという気持ちは理解できる。しかし、このたび神戸市長が前向きとなったからには、費用負担についてのハードルは下がったとみて良さそうだ。

photo 都市鉄道等利便増進法による支援の仕組み(出典:国土交通省
photo 三宮駅の阪神電鉄側でも都市鉄道等利便増進事業が行われた(出典:国土交通省

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