カンパニー制のスタートから1年半。その成果はどうなのか、筆者はこれから各カンパニーのプレジデントにそれを聞いていきたいと考えているが、話を聞くチャンスが最初に訪れたのは商用車(CV)カンパニーのエグゼクティブ・バイス・プレジデントである中嶋裕樹氏であった。そのインタビューでのやり取りを記したい(以下、敬省略)。
池田: カンパニー制スタートから1年半で、CVカンパニーとして分かったこと、そして具体的な変化がどう起きているのかについてお伺いしたいと思います。
中嶋: カンパニー制にして意思決定を早くするという話はこれまでもたびたびさせていただきましたが、それ以外にも、トヨタ全体のプライオリティに阻まれてリソース配分が確保できないという問題がありました。CVカンパニーのクルマは多くがフレーム構造ですが、会社全体で見れば当然商品数の多いモノコック車の技術開発が優先されます。
しかし、これがカンパニー制になったことによって、カンパニーの中でリソース配分のプライオリティをつけられるようになり、フレーム構造は後回しということがなくなりました。これによってより多くのクルマをリリースできるようになりました。
池田: 「他で手いっぱいだからちょっと待っててね」と言われなくなったわけですね。
中嶋: そうです。市場を見ながら、最適なタイミングで新型車をリリースすることができるようになり、開発速度が速くなりました。
池田: なるほど。それは分社化によって解決したい最も重要な要素でしたからね。
中嶋: そうです。それともう1つは技術開発。特にハイブリッドを含む電動化や燃料電池化です。商用車にとって重要なマーケットは新興国なのですが、地域によっては電動化を急がなくてはならない国があります。例えば、ランドクルーザー(ランクル)は砂漠の多い国では人気があります。しかし北米のZEV(ゼロエミッションビークル)規制を範に取ったさまざまな環境系法規制が各国で追加されつつある現状、ランクルを1台売ろうと思ったら、プリウスを何台も売らなくてはなりません。プリウスが売れる地域なら良いのですが、例えば、サウジアラビアのような産油国では、燃料単価が安いためプリウスは買ってもらえません。そうするとランクルを売ろうと思ったら、われわれ商用車カンパニーの作るクルマ自体を電動化していかなくてはならないのです。
池田: 一言で電動化といっても、環境の厳しい地域だと大変ですよね? ランクルのようなクルマの場合、電動化によって4輪個別のトラクション制御とかの技術的飛躍の可能性で非常に魅力な一方、砂塵や水の問題とかも解決する必要がありますよね?
中嶋: おっしゃる通りで、例えばランクルを電動化しようとすれば、高電圧ユニットの水没対策をやらなくてはなりません。一方で、商用車には商用車のメリットもあります。ほとんどのクルマがラダーフレームで、しかもFRなので、フレームの隙間にスペースが十分にあるという意味ではモノコックより拡張性が高いのです。
例えば、燃料電池をやろうとしたとき、水素タンクの容量を大きくとれることになります。EVやハイブリッドの電池ももちろん大型化できます。加えてリジッドの車軸の手前のどこかにモーター取り付けさえすれば良いと言う意味で、大きさの違うさまざまなクルマに1つのシステムで汎用性を持たせて対応できます。例えば水素の場合、トヨタだけで水素社会が実現できるわけではありませんから、究極的には他のメーカーにもこのシステムを提供するということも考えられます。
池田: なるほど、新興国の環境対策をトヨタの商用車がけん引する形で実現できる可能性があるわけですね。
中嶋: その第1弾として、今年の8月9日にセブン-イレブンとの間で物流トラックの燃料電池車化の検討を開始しています。
池田: リリースを見ると、走行と冷蔵の動力源として活用するだけでなく、店舗側のエネルギーマネジメントにも水素を取り入れる構想のようですね。
中嶋: まだまだこれは緒に就いたところですが、新しい技術を普及していくことも商用車カンパニーの大きな役割だと思います。先ほども申し上げたように、水没や砂塵のある過酷な環境で使えるように磨き上げて、普及させていくための技術というものがわれわれ商用車カンパニーの得意なところでもあるのです。
池田: なるほど。よく分かります。
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